三笠市桂沢の山あいにある「湯の元温泉旅館」と、併設する障害者のグループホームを運営する。元プロレスラーという異色の経歴。廃業寸前だった旅館の経営を引き継ぎ、「障害のある人の雇用の場をつくりたい」と奮闘している。
■プロレスを引退
 身長192センチ、体重150キロの恵まれた体格だが「小さいころはいじめられっ子だった」。小柄なプロレスラー「獣神サンダー・ライガー」さんが体の大きな相手に立ち向かう姿に憧れ、プロレスの道に。けがで引退後の出会いがきっかけで、福祉に携わるようになった。
 勤務した東京の警備会社で担当したのは、統合失調症などの精神障害者の病院搬送や付き添い。「どうやって鍛えてるの?」。たわいのない会話から当事者の思いを聞くうち「当事者が自分で何とかしたいと思っていても、難しい。安心して住める場所をつくろう」と思い立った。
 レスラー時代のスポンサーの協力を得て、2013年から栃木県などでグループホームの運営を始めた。一時は100人以上が暮らす規模にまでなったが「住む場所の提供だけでは自立につながらない」と限界も感じていた。環境を変えて再挑戦することにした。
 故郷岩見沢市に隣接する三笠市に廃業寸前の温泉旅館があると知り、19年に事業を引き継ぎ、別館にグループホームを開設。入居者は旅館の清掃や接客などを担当し、収入を得る仕組みだ。翌年にはキャンプ場も開いた。一帯を「すぎうらんど」と名付けた。現在は10~60代の15人が入居しており、新しい事業展開も模索する。
 今年に入り、市内でコンビニエンスストアとして使われていた建物を譲り受けた。自前の農場で育てた卵を使うプリンの製造を考えており、夏には食品加工場が完成する予定だ。
■偏見なくしたい
 「三笠は小さなコミュニティーが生命線の地域。どう受け入れてもらえるかが大事」と感じている。人口減少と高齢化が進む中、町内会活動や除排雪、消防団活動など、地域のマンパワー不足は深刻さを増している。住民として地域に関わることで、障害に対する理解も進むと期待する。
 「特別扱いされないようなつながりが、本人の存在意義にもなる。つながりが広がれば、いずれは障害者という言葉がなくなり、偏見のない世界につながるんじゃないでしょうか」
 プロレスラーは引退したというが「北都プロレス」(札幌)とは関わりを持っている。自身と背格好が同じ覆面レスラー「北海熊五郎」のマネジャーとしても活動していると話す一方、「私と北海熊五郎が一緒にいる所は、誰も見たことがないですね」と笑う。
 北海熊五郎の力も借りながら、すぎうらんどの活動に興味を持ってもらうべく「情報発信をどんどんと進めたい」と意欲を示す。
 <略歴>すぎうら・いっせい 1982年、岩見沢市生まれ。レスリングの強豪校だった岩見沢農業高、山梨学院大卒。全日本プロレスに所属し、けがのため2007年に引退。13年から一時、首都圏で障害者のグループホームを運営。19年に湯の元温泉旅館の事業を引き継ぎ、グループホームも運営する。

「いつか障害者という言葉が無くなってほしい」と話す杉浦一生さん

2024年4月29日 12:00北海道新聞どうしん電子版より転載