道内の介護施設職員による高齢者への虐待が増加の一途をたどっている。道の統計で最新の2022年度データによると、前年度比5件増の33件で、06年度の統計開始以来最多を更新。けがをさせたとして傷害容疑で職員が逮捕される事件も相次ぐ。介護現場は深刻な人手不足に陥っており、過度な業務負担によるストレスや疲労が影響している可能性がある。専門家は職員への支援を充実させるとともに、行政が施設の管理運営を定期的にチェックする必要性を指摘している。


 「ストレスが極限に達し、手を上げてしまう気持ちは分かる」。道央の有料老人ホームで働く20代女性は介護現場の実情を明かす。
 夜勤は1人で認知症の入居者ら約20人を担当し、過度の負担から過呼吸になったこともある。入居者から暴力やセクハラを受け、心身が傷ついても人手不足で休めない。居室は職員と入居者だけの「密室」で、虐待を訴える入居者も少なくないという。
 道によると、22年度の高齢者虐待33件のうち、施設・事業所の種類別は有料老人ホームが10件、特別養護老人ホーム(特養)が8件と目立つ。虐待した職員数は前年度比27人増の76人。
 1件の虐待で被害者が複数いる場合もあり、被害者数は同93人増の128人と過去最多だった。オホーツク管内西興部村の特養職員が入居者80人の全裸などをカメラで撮影し、性的虐待と認定され、押し上げた。
 事件化するケースも相次ぐ。札幌市中央区の有料老人ホームでは昨年11月、入居者の70代女性をベッドに放り投げ、けがを負わせたとして傷害容疑で職員の30代男が逮捕された。男は「何人もの入居者の様子を見る必要があり、大変だった」と供述したという。
 今年1月には、同市南区のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)で入居者の90代女性の頭を殴り、傷害容疑で職員の20代男が逮捕された。女性は1週間後に死亡。男は夜勤中で排せつ介助などを担当していた。
 道が昨年1~2月に実施した調査では、道内の高齢者施設の職員の9%が「虐待を行ったことがある」と回答。虐待の要因として、61%が「人員不足や配置先による多忙さ」を挙げた。
 石狩管内の高齢者施設に勤める女性は「利用者の中には、介助に手間がかかる人や抵抗する人もいる。人手不足の中で孤立を深め、ストレスをため込む職員は多い」と話す。
 一方、高齢化で道内の介護施設数は右肩上がりだ。道によると、昨年4月時点の特養と有料老人ホームは計1654施設で、5年前と比べ1・2倍に増えた。国は自治体に対し、特養や老人保健福祉施設を3年に1回、実地指導することが望ましいとしている。
 札幌市も3年に1回指導するが、20~22年度は新型コロナウイルス感染防止で訪問できないケースもあったという。別の自治体担当者は「コロナ禍で施設が増え続け、実態を把握するのが難しい」と漏らす。
 星槎道都大の大島康雄准教授(社会福祉学)は「施設側は研修を増やすなど経験の浅い職員を支える体制づくりが重要。行政はより細かい頻度で施設に立ち入り、虐待防止に適切に取り組んでいるか指導する必要がある」と指摘している。

2024年4月27日 18:51(4月28日 15:10更新)北海道新聞どうしん電子版より転載