「疲労感を緩和します」「脂肪の吸収を抑えます」-。ドラッグストアやコンビニでさまざまな機能をうたう健康食品が販売され、身近な存在になっている。小林製薬の「紅こうじ」を使った機能性表示食品による健康被害が注目される中、消費者は健康食品やサプリメントとどう付き合えばいいのか、薬剤師や管理栄養士らに聞いた。
■薬ではなく食品/飲み合わせ注意/過剰摂取恐れも
 北海道薬剤師会医薬情報センター(札幌市豊平区)の「ほっかいどう・おくすり情報室」には、「このサプリメントと処方薬を一緒に飲んでも問題ないか」といった相談が時折寄せられる。主任薬剤師の奥村康子さん(53)は「サプリメントは、病気を治療する『薬』とは異なり、健康維持を目的に使う『食品』の一つ」と強調する。「必ずしも安全とは限らず、薬との飲み合わせに影響を与えるものもあるため、自己判断せずに、摂取前に必ずかかりつけの医師や薬剤師に相談してほしい」と呼びかける。
 例えば、記憶力を維持するなどとして販売されている「イチョウ葉エキス」は、血液をさらさらにする薬や解熱鎮痛薬と併用すると出血傾向になる可能性がある。前向きになるなどとうたう「セントジョンズワート」は、抗うつ薬などと併用すると震えや下痢、発熱などの副作用を起こすことがあるという。
 サプリメントは私たちの生活に浸透している。厚生労働省の国民健康・栄養調査(2019年)によると、サプリメントや健康食品を摂取している人の割合は男性が30.2%、女性が38.2%で、男女とも60代が最多だった。
 気軽に飲める分、過剰摂取のリスクもある。
 北海道情報大の学長で、糖尿病や臨床栄養学が専門の西平順さん(71)は「サプリメントは、錠剤やカプセル、粉末にある特定の単独の成分が濃縮されており、過剰摂取の恐れがある」と指摘する。西平さんによると、人の体は「ホメオスタシス(恒常性)」という機能により、体内の状態を一定に維持している。飲み続け、特定の成分が体内で過剰になれば、ホルモンの分泌や自律神経のバランスが崩れる。
 西平さんは「バランスの良い食事で十分な栄養がとれていれば、基本的にはサプリメントは必ずしもとる必要はない。宣伝に飛びつかず、まずは普段の食事内容と自分の体の状態をチェックしてほしい」と話す。自身の栄養状態の点検のため、地域の保健センターや医療機関の管理栄養士に相談することも勧める。
 サプリメントの特徴の一つは、取りたい栄養素をピンポイントで摂取できることにある。
 ナカジマ薬局さっぽろ認定栄養ケア・ステーション(同市中央区)の管理栄養士、辻睦実さん(41)は「足りない栄養素を気軽に補えるメリットもある」と話す。
 例えば、月経のある女性は、鉄の必要量が多く、鉄欠乏性貧血も心配される。また、妊娠期の女性は胎児の発育のために葉酸が必要だが、つわりで十分に食事がとれない場合も。こうした場合、サプリメントが選択肢になる。
 このほか、ビタミンDは太陽を浴びて体内で生成されるが、特に日照時間の短い冬に道民は不足しやすい。キノコ類やサケなど食事で補うことが重要だが、「こうした食材が苦手な人はサプリメントを使う必要も出てくる」と言う。
 健康食品は薬のように効くのか。北大大学院農学研究院の准教授で、食品機能化学が専門の加藤英介さん(44)は「簡単に言えば、薬は働きが強く、病気の人が飲む。特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品は働きが弱く、病気未満の『未病』の人が飲むもの」と説明する。健康食品の短期間の摂取では明確な効果は現れず、一般的には基準量通りに一定の期間飲むと徐々に効き目が出るという。
 「紅こうじ」問題を受け、消費者庁は機能性表示食品制度の見直しを進めている。健康被害情報の報告ルールの整備や、消費者への情報提供、製造販売過程における安全性の確保が検討課題となる。
 西平さんは「伝統的に人が食べてきた『食経験』があるかどうかが、食の安全の一番の目安になる。臨床試験で問題がなくても、濃縮や加工、製品管理の過程でリスクは点在する。企業が食を扱う上でのモラルを守るとともに、消費者も知識を持つ必要がある」と話している。
■機能性表示 可否に差
 消費者庁によると、いわゆる健康食品、サプリメントと呼ばれるものについて、法令上の定義はない。一般的に、健康食品は健康の維持、増進に役立つことをうたったものを指し、サプリメントはこのうち錠剤やカプセル状のものを指すことが多い。
 食品には、国が定めた基準に従って機能性を表示できるものと、表示できないものがある。表示できる保健機能食品には①特定保健用食品(トクホ)②栄養機能食品③機能性表示食品の3種類がある。
 トクホは、効果や安全性について国が審査を行い、食品ごとに消費者庁が許可する。栄養機能食品は、すでに科学的根拠が確認された栄養成分を基準量含めば、届け出なしに機能性を表示できる。機能性表示食品は、事業者の責任において、機能性を表示した食品。安全性や機能性の根拠を消費者庁に届け出るが、個別の許可は受けていない。問題になっている小林製薬の「紅麹(べにこうじ)コレステヘルプ」は機能性表示食品だった。
 機能性を表示できなどのほかに、栄養補助食品、健康補助食品などがある。

2024年4月25日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載