【南区】北海道盲導犬協会(南30西8)は、設立から半世紀余り、視覚障害者と行動を共にする盲導犬の育成に力を尽くしています。訓練を終え、視覚障害者と約10年間暮らす盲導犬は12歳で引退し、老後を過ごします。その一生は多くのボランティアと市民の募金に支えられています。(ライター・佐々木信恵)=写真は北海道盲導犬協会提供
71年に第1号デビュー
 協会は前身の札幌盲導犬協会として1970年11月、東京に続き全国2番目に設立されました。当時、国内に6人しかいなかった訓練士のうち2人が札幌を訪れ、盲導犬育成の機運が一気に高まったのです。井内(いのうち)憲次さん、香月洋一さん。犬の販売やしつけをする「東京畜犬」で働く20代の若者でした。

英国から来日したロブソン夫妻と盲導犬ロナ=1968年

同社は68年、英国からロブソン夫妻とケネス・クリーさんを招き、盲導犬訓練を開始。夫人は視覚障害者で、盲導犬ロナを連れていました。ロナが歩道を誘導すると夫人は早い足取りで歩き、段差があるとピタリと止まる。究極のパートナーシップに井内さんらは感動し、厳しい訓練に励みました。
 その2年後、会社が倒産。訓練士は12頭の犬を抱えて職を失いますが、事業継続への思いを断ち切ることはできませんでした。

訓練士の井内さん(右)とミーナ、香月さんとジョナ=1970年

その頃、札幌市視聴覚障がい者情報センターの職員と朗読奉仕のボランティア7人が北海道盲導犬普及協会を設立。盲導犬を育てるための街頭募金活動を開始。東京の訓練士に来札を要請し、これに応じた井内さんと香月さんが5頭のラブラドールレトリバーを連れてやって来ました。最初に盲導犬候補として訓練したのがミーナとジョナでした。

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第1回の共同訓練を終えた雨宮さん(前列右)とミーナ、田村さん(同左)とジョナ=1971年

2頭のユーザーになったのは、協会メンバーの雨宮昭さんと田村聡さん。犬に命を預けるのは大きな決断でした。井内さんと香月さんは使命感を持ってユーザーと犬と寝食を共にし、共同訓練に励みました。そして71年5月、盲導犬の道内第1号としてミーナが、続いてジョナがデビューを果たしました。

札幌市の許可を受け、地下鉄で行われた盲導犬の訓練=1972年ごろ

・世界初の老犬ホーム
 盲導犬事業には札幌市も積極的に協力し、ミーナとジョナが地下鉄や市電、旧市バスに乗れるよう取り計らいました。全国的にも早い時期での同乗許可でした。「ミーナの募金箱」を設置すると市民から多くの善意が集まり、73年には札幌市から土地を無償貸与され、訓練所と犬舎が完成。関係者の予想を上回る早さで事業が本格的に進んでいきました。
 ミーナとジョナは無事盲導犬としての務めを果たし、引退の時期が近づきました。ユーザーと全ての関係者が、仕事を全うした犬に感謝を込めて協会内につくった施設が、世界初の老犬ホーム。海外では老犬を引き取るボランティアが普及しているものの、日本はまだ手探り状態。盲導犬として巣立った協会に戻り、安心して老後を過ごしてほしいと、設置されました。

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㊦北海道盲導犬協会の施設内に設けられた老犬ホーム=1996年

協会設立9年目の78年、繁殖、パピー(子犬)、訓練、老犬ホーム、そして死んだ後の墓まで、その一生に協会が関わり、一貫して盲導犬を育成するシステムをつくりあげたのです。
市民に広がる協力の輪
 協会は発足当時から盲導犬の啓発活動を行い、飲食店などの入店拒否や街を歩く際の妨げにならないよう理解を呼びかけました。繁殖犬、パピー、老犬、盲導犬に合格できなかった犬を飼育するボランティアを募り、協力の輪は半世紀で大きく広がりました。

道内6千カ所に設置されている「ミーナの募金箱」

視覚障害者を対象に白杖(はくじょう)歩行、点字、パソコン利用などの生活訓練を道内で初めて手掛け、これら功績に対し、2011年、日本動物愛護協会(東京)から日本動物大賞「動物愛護賞」、19年には北海道功労賞を受賞しました。
 訓練士として協会をけん引し続けた井内さんは現在77歳。現役時代、166頭の盲導犬を育て上げ、定年退職後は老犬ホームで犬の世話をし、今年3月に引退。「盲導犬は幸せな犬です。外出中のユーザーから命を預けられるほど信頼されているのです」と話します。

犬舎で引退犬の世話をする井内憲次さん

協会の和田孝文所長は「ユーザーやボランティアは犬に尊敬の念を持って接しています。たとえ盲導犬になれなくても、協会が繁殖させた全ての命に対して終生責任を持って預かっており、ボランティアの存在は欠かせません」と言います。
 現在、ボランティアの登録者は160人。1頭の盲導犬を育てるには500万円の費用がかかるため、道内6千カ所にミーナの募金箱が設置され、年間6千万円の募金が充てられています。23年11月時点で盲導犬の育成総数は591頭。今も全国で盲導犬を希望するユーザーが待機しています。「活動は皆さんの善意に支えられている。盲導犬とユーザーの幸せを考え、責任を持つのが協会の使命」と和田所長。ボランティア希望者や視力の低下で困っている人は北海道盲導犬協会、電話582・8222へ。

2024年4月26日 10:00北海道新聞どうしん電子版より転載