函館の50代男性は運送会社に勤めていた5年前、職場の人間関係に思い悩み、不眠症になった。疲労が抜けずミスを連発し、退職。非正規の仕事に就いたが続かなかった。今は80代と70代の父母の家に身を寄せる。ひきこもりのまま年を重ねて高齢の親と共に困窮する「8050問題」は人ごとではないと感じるが「自立のイメージが沸かない」という。
■「4千人」の衝撃
 市民の60人に1人はひきこもり―。函館市が2020年、実態を初めて推計したところ4千人以上との結果が出た。ひきこもりは長引くと貧困や健康問題につながりかねない。人数が膨らむと働き手不足にも拍車がかかる。家族の心理的、経済的負担も大きい。市幹部は「函館にとって実は大きな問題」と指摘する。
 工藤寿樹前市長はこの問題に関心を向けていたとされる。スローガンに掲げた「日本一の福祉都市」の具体策として22年4月、主に高齢者が対象だった地域包括支援センターを、ひきこもりやひとり親など全世代を対象とした自立支援機能を併設する福祉拠点に整備した。
 困窮者から相談を受け、その人に合った支援プランを作成し、問題解決につなげる流れだ。2年目となる23年度に作成したプランは1月時点ですでに初年度の約100件増の312件に上った。
 それでも取り組みが十分とは言い難い。ひきこもりの支援は早く始めるほど効果的とされるが「若い世代のひきこもりは見つけ出すこと自体が難しい」(市保健福祉部)。見つけ出しても本人や家族が了解しなければ接点を持てない。年単位で粘り強く説得し、相談に至った例もある。
 各拠点は交流サイト(SNS)で相談に応じたり、コンビニに窓口をPRするカードを置いたりし、手探りでアプローチする。保健福祉部長時代に福祉拠点の開設を担った大泉潤市長が公の場で社会的孤立に触れることはあまりないが、関係者と面会するなど問題意識はあるとされる。
 生活保護受給率が高く、市民の幸福度が低いとのデータもある函館では、とりわけ経済面で生きづらさを感じる人が多い。70代の自営業女性は最近、生活保護の受給を考えるようになった。周囲の目を気にして「耐えていた」が、受給した新型コロナ対策の給付金が所得税の課税対象となっており、重くのしかかる。
 解せないことがあった。市は昨年12月、子ども1人当たり2万円給付という独自の物価高対策を打ち出した。市民団体などが要望した低所得世帯に灯油を助成する福祉灯油は見送られた。
■税金使途に疑問
 大泉市長は「国も支援策を講じる中、総合的に考えて子育て世帯を選んだ」と説明。この女性は市が新幹線函館駅乗り入れの整備費を160億円と試算したことも挙げ「今困っている人にも税金を使ってほしい」と漏らす。
 1年前、閉塞(へいそく)感の打破への期待から多くの民意の支持を得た大泉氏。19日の北海道新聞のインタビューでこの1年の自己採点について「ぎりぎり合格点かな。企業誘致をさらに進めたい」と答えた。さまざまな難題を抱える市民からも合格と認めてもらうには、その声に耳を澄ませる必要がある。(大庭イサク)
=おわり=

ひきこもりなどの相談に応じる福祉拠点の受付。業務をPRするカードをコンビニに置くなどして困窮者へのアプローチに努めている

2024年4月25日 21:36(4月25日 22:02更新)北海道新聞どうしん電子版より転載