札幌市北区にある公民館の一室に、車いすに乗る人や赤ちゃん連れなど十数人が集まった。市民団体「NPOボラギャング」が月に1度開いているサロンだ。障害の有無にかかわらず、誰でも自由に参加できる。
 「赤ちゃんと目が合ったね」。代表理事の野沢美香さん(51)が、筋力が低下する筋ジストロフィーを患う森元彩世(さよ)さん(22)に声を掛けた。森元さんは、近所の母親が連れてきた生後2カ月の男児に、優しい表情を見せた。
■身近な自死
 ボラギャングは2016年、新光小(北区)のPTA役員だった野沢さんを中心に地域住民4人で結成した。当時同小に通っていた野沢さんの長男が「学校に泊まってみたい」と話したのを機に、町内会と連携し、同小の体育館で一晩を過ごして避難所を体験する「防災フェス」を催したことがきっかけだった。「防災の大切さを子育て世帯にもっと伝えたい」と考え、親子で参加できる子ども食堂を始めた。
 その頃、身近で子どもの自死が起きていたことを知った。4児の母である野沢さんは「子どもが自ら命を絶つようなことがあってはならない。そうならない地域をつくらなくては」との思いを強くした。それが今も活動の原動力になっている。
 地域のさまざまな課題を解決しようと多方面で取り組んできた。野沢さんは「困りごとに気づいたら、その都度何ができるか考え行動に移している」と話す。
 夕食を提供する子ども食堂のほか、大学生有志による学習支援や不登校の子のためのフリースペース、子ども向け防災教室などをそれぞれ週1回~月1回程度、北区で一軒家を借りて実施している。
 中でも力を入れているのが障害者の居場所づくり。重度の知的・身体障害のある子を育てる親たちから「自分の子と健常の子が触れ合う機会がほとんどない」と聞き、森元さんの母百合さん(55)らと協力し、22年にインクルーシブ(包摂的)なサロンを始めた。
 野沢さんは「障害の有無にかかわらず共に過ごす中で、自然に交わり、互いが当たり前の存在になっていく」とサロンの意義を強調する。ボラギャングスタッフの星野直子さん(50)は染色体異常による障害のある息子大樹さん(20)とサロンを利用する。ここは、大樹さんにとって施設でも家庭でもない「第3の居場所」と話す。
■就労の場も
 コロナ禍では、孤立しがちな乳幼児の子育て世帯が交流できる「子育てサロン」も始めた。最近は、多忙な教員の力になろうと、近隣小中学校の教員たちと住民が気楽に言葉を交わす集まりを月1回開いている。
 野沢さんを含め現在3人のスタッフはボランティアで手伝い、活動資金は民間の助成金や企業などからの寄付金を活用する。食品や生理用品などの寄付も受け、生活に困窮する人に手渡している。
 今後は障害のある子とその親の就労の場をつくろうと、就労継続支援B型事業所の開設を夢に描く。野沢さんはかつて画家を志し、個展で絵画を発表していた。経験を生かし、事業所の仕事内容は舞台芸術や小道具の制作にする計画だ。
 「何かあった時、周囲の人がすぐSOSに気付けるような地域のつながりをつくっていきたい」と走り続ける。(有田麻子)
 <略歴>のざわ・みか 旭川市出身。旭川女子高等商業学校(現・旭川明成高校)卒業後、歯科助手や役所の臨時職員として働きながら、アクリル画を制作し個展を開くなどの芸術活動をしていた。夫の仕事の都合で札幌へ移住。2016年に市民団体「NPOボラギャング」を設立し、代表理事に就任。大学4年の長女、大学1年の長男、高校1年の双子の姉妹を育てる。
 

 介護や医療、福祉、子育て、教育の現場で、困っている人を支え、寄り添う「ケア」に携わる人たちがいる。どんな思いで取り組み、社会の課題と向き合っているかを伝える。(月1回、第3木曜に掲載します)

2024年4月18日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載