生まれた子どもに病気や障害があった時に、これからの暮らしや支援制度について情報収集に追われる家族は多い。苦労した体験を基に家族たちが情報をまとめ、冊子やウェブサイトで公開する動きが道内で広がっている。必要な情報が一目で分かる使いやすさと、実際の事例を盛り込んだ具体的な内容が好評で、札幌発祥のガイドブックが東京で発行されるなど、道外でも注目されている。

「医療的ケアが必要なお子さんとご家族のための支援ガイドブック(札幌市版)」の表紙

「ダウン症ベビーとの歩みかた」の表紙
 日常的に人工呼吸器などを使う医療的ケア(医ケア)が必要な子どもについて、自宅で生活するノウハウや地域ごとの支援制度、相談窓口をまとめた「支援ガイドブック」。札幌市の家族らが立ち上げた一般社団法人スペサポ(事務局・東京、札幌)などが2021年12月に発行した。
 A5判カラー、40ページ。医ケアの内容や機器、制度の説明に加え、誕生から退院までの手続きや家族の気持ちなど体験談を交えて紹介している。スぺサポが運営するウェブサイトで公開するほか、医療や福祉の専門知識を持つ人らにサイトから相談できる。
 スぺサポはガイドブックの原案を無償提供しており、道内は旭川市、函館市、十勝管内鹿追町で各地域版が病院や自治体などによって作られた。活用の動きは道内にとどまらず、昨年12月には東京都江東区でも発行された。同区によると、家族らにニーズ調査をしたところ医ケアに関わる情報の集約を望む声があり、全国のガイドブックを調べる中でスペサポが選ばれた。同区障害者支援課は「基本的な説明からモデルケースまで網羅されていて、江東区の目指す方向性と一致した」と話す。
 スペサポでガイドブック作りに携わった理事の関家一馬さん(36)=札幌市在住=は、情報収集に苦労した家族の一人だ。長女のさとみさん(7)が難病の脊髄性筋萎縮症(SMA)で鼻からの人工呼吸やたんの吸引が必要だ。生後3カ月ごろに診断され、1年の入院を経て自宅でのケアが始まった。
 当時は病院の医療ソーシャルワーカーに相談しても分からないことが多く、情報をまとめた行政の冊子などもなかった。「聞く相手を探すところから始めないといけなかった」と振り返る。自らの経験から、ガイドブックには自宅で行うケアのタイムスケジュール、訪問看護や施設短期入所など1週間の流れを載せた。

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ガイドブック作りに携わった関家一馬さん(左端)、人工呼吸器を使う長女のさとみさん(左から2人目)と並んで談笑する家族
 ガイドブックは当初3千部印刷したが2千部増刷し、サイトも順調に閲覧数が伸びている。今後は、サイトでの当事者同士の情報交換を活発化したい考えだ。
 スペサポのノウハウを活用して別のガイドブックも作成されている。「ダウン症ベビーとの歩みかた」は、札幌市のダウン症児の親たちのグループ「こや議会」が昨年12月に発行した。B5判カラー、40ページ。800部発行するほか、同グループのウェブサイトでも公開し、ダウン症候群の解説や発達を促す療育の種類、手続きを載せている。「ダウン症児が加入できる保険(保障)」一覧も需要が高い情報の一つだ。代表の平田ゆかりさん(40)は「病院からは支援するのに心強い、親からは孤独感がやわらぐ冊子だという声が届いている」と手応えを語る。

 ガイドブックの入手方法など問い合わせは、スぺサポのウェブサイト、こや議会のウェブサイトのそれぞれ専用フォームから。
■自治体、保健師相談で対応
 生まれて間もない子どもの病気や障害について、各自治体は保健師の家庭訪問を通して家族の悩みを聞き、支援につなげている。
 札幌市は、保健師の会議で、スペサポ、こや議会がそれぞれ作成したガイドブックを紹介。乳児のいる家庭への訪問で活用している。今月には、家族会の要望を受け、訪問時の手引書を新たに作るのに合わせ、ダウン症児向けの支援を加えた。上野泉・母子保健係長は「支援の内容は、ほかの病気や障害にも共通する」として、現場で広く活用する考えだ。
 旭川市では、医療機関の医療ソーシャルワーカーが家族に対し療育手帳などの制度を説明をすることが多く、市の保健師が引き継いで行政窓口を案内し、必要に応じて同行する。職員の経験などで差が生じないよう、一定の情報は複数の保健師で共有している。函館市では、函館中央病院(本町)に「こども子育て支援室」があり、家族らの相談全般を受ける。
 子どもに障害や病気があった際の支援制度や相談窓口を母子健康手帳に記載している自治体もある。2024年4月11日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載