【鶴居】16日告示の釧路管内鶴居村長選が12回連続の無投票となる雲行きだ。4選を目指す現職の対抗馬が現れなければ、道内の首長選では昨春に13回連続無投票となった留萌管内初山別村に次ぐ単独2位の連続記録となる。全国でも町村部を中心に無投票が相次ぐ。背景には何があるのか、鶴居村の現場を歩いた。
 24年、道内34市町村で首長選 「なり手不足」懸念
 9日、鶴居村選管が行った村長選立候補届け出の事前審査には現職の大石正行氏(63)の陣営しか現れなかった。村内は32カ所に設置されたポスター掲示板以外に選挙色を感じさせるものはないが、20年前の今ごろは、住民が二分しそうな一大事に直面していた。
 「『タンチョウの鶴居』で売っているのに、合併して釧路市鶴居になったらおかしいだろ。予算が減らされ、基幹産業の酪農がだめになる不安もあった。選挙で白黒はっきりさせたかった」。地元農協の元組合長でホクレン副会長も務めた瀧澤義一さん(75)は選挙戦が幻となった2004年の村長選をこう振り返る。
 村は当時、近隣の釧路市などとの合併協議の真っただ中だった。村長は1976年に元村議会議長を破って初当選し、その後は6回連続で無投票当選して7期目に入っていた錠者(じょうしゃ)和三郎さん(故人)。「財政が厳しく、村は一人歩きできない」と合併を主張し、8選に向け出馬表明していた。
 これに対し合併に反対する瀧澤さんらは対抗馬擁立に動き、村長選告示半月前に村課長だった日野浦正志さん(77)を担ぎ、28年ぶりに選挙戦となるムードが高まった。だが6日後、錠者さんは「村を二分したくない」と出馬を撤回した。
 結局、無投票で初当選した日野浦さんは当時について「多くの住民は合併を疑問視していた。選挙になりかけたのは合併への危機感があったから」と明言する。一方で選挙が回避されたことについては「錠者さんも無理強いの合併で、選挙には勝てないと分かっていたのでは」と推し量る。
 日野浦さんは1度も選挙戦を経ずに2期で引退。その後、副村長から村長になった大石氏も20年の前回村長選まで無投票で3選を重ね、自ら成人後に村長選で投票できたことはない。
 20年前と異なるのは村内に危機感が乏しいことだ。村は宅地造成で釧路市や道外からの移住者を招き入れ、近年は転入が転出を上回る人口の社会増が続く。出生と死亡を加味した人口全体は減少傾向とはいえ、周辺自治体より緩やかだ。
 大石氏の後援会長を務める瀧澤さんは「村長が期数を重ねれば、物申す人がいなくなる。反対意見もあると確認させるために選挙戦はあった方がいい」と強調しつつ、こう話す。「今は正面切って住民に意見を求めるような課題もない」
■くみ取られぬ民意に危機感
 道内は昨春の統一地方選で47市町村長選の6割の28市町村が無投票で、このうち町村が25を占める。

サイドバーでクエリ検索

釧路管内浜中町では無投票が10回続き、この間、助役・副町長経験者が4代続けて無投票で町長となった。だが昨年10月の町長選は、副町長と町課長を辞した2人が出馬して1984年以来39年ぶりの選挙戦となった。背景には漁業関係者と酪農関係者の主導権争いがあったとされるが、人口減への危機感もあった。
 前副町長が初当選したが、前課長を推した地元農協元組合長の石橋栄紀さん(83)は「副町長が自動的に町長になるような流れを断ちたかった。無投票が続けば町を変えようという民意はくみ取られず、どんどん過疎が進む」と選挙戦になった意義を強調する。
 鶴居村も楽観はできない。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、20年に2500人超だった人口は50年には3割減って1800人を切る。全道平均より減少幅は大きく、特に15~64歳の生産年齢人口は4割減だ。
 大石氏は「給食費無償化など子育て施策はほぼやったが、子どもは減っている。人口減少は手の打ちようがない」と語る。
 1970年代の2度の村長選で候補者を出した幌呂地区は人口減少が著しく、来春に小中学校が閉校となる。昨春の村議選も直前に無投票を回避したが、村内では「人が減り、どの地域も候補者を出すのが難しくなっている」との声が漏れる。
 北大公共政策大学院の山崎幹根教授(地方自治論)の話 人口の少ない自治体は積極的にリーダーになろうとする人材が不足している。禍根が残らないよう争いを回避する傾向もある。地域経済が停滞し、選挙で競い合う活力も失われている。ただ対立候補が出て予想外に得票すれば、現職は再選されても緊張感をもって取り組まなければならなくなる。統一地方選では現職が敗れる例もあった。地域を変えたいという民意の表れだ。選挙で善しあしを決し、民主的正統性を持つ首長が出ることは重要だ。
 釧路公立大の千田航准教授(政治学)の話 鶴居村はそれなりに移住者がおり、近隣の自治体と比べて人口が減っていない。住民が村政に大きな変化を求めている状況ではなく、消極的な選択と言えるが、競争よりも安定を選んでいるのだろう。地方自治は大事だが、小さい自治体の住民にとっては、新しいトップを選んで大胆に変えるより、現状のサービスを維持することが大事だ。

2024年4月10日 17:36(4月10日 23:14更新)北海道新聞どうしん電子版より転載