通常、食品は健康を害することはなく安全です。ごはん、パンなどは、心配なく食べられます。どうして安全かというと、長年にわたって人々が食べ続けていて、問題が起こらないからです。こうした食べ物のことを「食経験がある食品」といいます。
 でも、これは食べ方も重要な要素です。ごはんの食経験は豊富ですが、生米ではそうはいきません。生米をお茶わん1杯食べたら、おそらく消化不良で腹痛を起こしたり、下痢をしたりする人が多いはずです。ごはんの食経験は、あくまでも炊いたり、蒸したりすることが前提なわけです。
 また、使用量も問題です。例えば、しょうゆは普段使っている程度の量なら問題はありませんが、もし1リットルぐらいのしょうゆを一気に飲んだら死んでしまうことが分かっています。日常の使用量という前提が、しょうゆの食経験に重要なのです。
 今、栄養補給や食欲を満たすことに加えて、健康に関わる機能を持っている食品が存在します。それを機能性表示食品と呼びます。食品事業者が、その機能性や食経験を示す資料を消費者庁に届けることで認可され、ラベルや包装に表示することが許されます。
 しかし、機能性を示す食品の成分が、食経験に基づいた方法で提供されているとは限らないという問題点があります。成分を錠剤やドリンクとして口に入れると結果的に大量接種になる危険性があります。このあたり、見直しが必要ではないかと危惧しています。(當瀬規嗣=とうせ・のりつぐ、道文教大教授、札医大名誉教授)

 

 

2024年4月10日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載