虐待や貧困などで実親と暮らせない子どもを預かる「里親」が、養育する「里子」を虐待するケースが道内で表面化している。政府が家庭的な環境で育てるため里親制度を推進する中、里子を蹴った里親が傷害容疑で逮捕される事件が発生。幼少期から虐待を受け、里親の元を逃げ出す事例もある。ただ、道などが把握する里親による虐待は年数件。家庭内で外部の目が届きづらく、里子も居場所を失うことを恐れ声を上げにくい。専門家は制度の重要性を強調した上で「氷山の一角だ。実態把握と里親の質確保が急務」と訴える。
 「里親に『何で生まれてきたんだ』と怒鳴られ、殴られる。逃げたかったけれど、行き場がなかった」
 道内の少女(17)は里親との生活を思い出し、声を詰まらせた。生後間もなく里親に預けられ、すぐに暴力が始まったという。階段から突き落とされ、食事も与えられない。あざだらけの顔には化粧クリームを塗られ、隠して登校させられた。
 教師や児童相談所に相談したが、状況は変わらなかった。外出や入浴も禁じられ、心が壊れていった。昨年、スマートフォンで友人に「助けて」と連絡。里親の家を飛び出し、友人経由で自立援助ホームにつながった。「やっと落ち着ける場所に来られた」と話す。
 政府は虐待や困窮で保護する子どもが増える中、2016年の児童福祉法改正で児童養護施設よりも「家庭養育優先」を明記し、里親委託を推進している。
 道と札幌市によると、道内で里親に委託された児童数は22年度末で525人に上り、10年前から95人増えた。里親委託を進めた結果、多くの熱意ある里親が増える一方、不適切な養育に至る例もある。

 3月26日には、札幌市南区で養育する男児を蹴って軽傷を負わせたとして、傷害容疑で里親の男(38)が逮捕された。道警によると、男は数年前に里親となり、最大6人の子どもを家庭的な環境で育てる「ファミリーホーム」を運営。「(男児が)うそをついたのでカッとなって蹴った」と供述しているという。
 里親になるには「保護が必要な児童への愛情があり、経済的に困窮していないこと」などの要件があるが、児相で研修を受ければ基本的に誰でも認定される。一方、厚生労働省の調査によると、里子の3人に1人は発達障害などで、養育が難しく、里親が不調に陥るケースもあるという。
 北海道里親会連合会の鈴木三千恵会長は「里親は『しっかり育てなきゃ』と責任を感じ、頑張りすぎるがゆえに負担も感じやすい」と危惧する。
 22年度に道と札幌市が確認した里親による虐待は3件。里親は家庭的な環境でケアする「最後のとりで」といわれ、里子は被害を訴えにくく、実態はさらに深刻とみられる。
 里親制度に詳しい大阪公立大大学院の伊藤嘉余子教授(子ども家庭福祉学)は「実親から虐待を受けるなどした里子は『前の環境よりまし』と考え、SOSを出しにくい」と指摘。
 制度の重要性と再発防止を訴え「官民連携で相談窓口を拡充し、里親に『預けっぱなし』にしないことが大切。里子の状態に合わせ、継続的に里親を孤立させない支援が欠かせない」と強調した。
<ことば>里親制度 虐待や貧困、死別などで実親と暮らせない子どもを別の家庭で育てる児童福祉法上の制度。子どもの年齢は原則18歳まで。実親の元に戻れるようになるまで育てる「養育里親」、虐待を受けた経験や障害がある子どもを預かる「専門里親」などがある。都道府県知事や政令指定都市の市長らが里親を認定し、子どもの養育費として手当を支給している。道内の里親登録数は2022年度末で1016世帯。

2024年4月2日 18:46(4月3日 7:20更新)北海道新聞どうしん電子版より転載