働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が1日、自動車運転業、建設業、医師、鹿児島・沖縄両県の製糖業の4業種に導入された。2019年から始まった上限規制は全業種で雇用されている人が対象となった。過労死まで招いた長時間労働の反省から始まった制度改革の節目で、抑止の実効性が問われる。一方で対象業種の人手不足は深刻で、利用者への影響は避けられない。物流停滞など「24年問題」も懸念され、社会全体で働き方を問い直す契機となりそうだ。
 規制は19年4月から多くの業種で導入されていた。4業種は業務の特殊性から長時間労働が常態化し、早期導入が難しいと判断。5年間猶予して改善を図った。だが発注者側の意向が強く反映される物流や建設業界の慣行もあり、総じて大きな改善はできなかった。
 新たに、自動車運転業(トラック、バス、タクシー)に「年960時間以下」などとする上限を導入する。ただ過労死ラインとされる月80時間と同水準であるほか、労働時間を正しく記録しない「闇残業」が横行する懸念も指摘される。
 政府によると、物流分野で十分な対策が講じられない場合、24年度に輸送能力が14%、30年度には34%不足すると推計される。実際の不足分は社会の動向次第となるが、宅配の遅れや過疎地域に向けた流通の支障が一定程度、想定される。
 運転手関連では上限規制とは別に、厚生労働省の「改善基準告示」も1日から変更。拘束時間を短く、休息は長くする内容だ。日本バス協会は規制や告示改正などにより運転手不足が2万1千人分に拡大すると試算。横浜市営バスなど減便の動きは各地で相次ぐ。
 トラック運転手の残業規制強化を受け、輸送効率の向上のため、高速道路の速度規制を緩和する改正道交法施行令が1日に施行された。総重量8トン以上の中大型トラックの最高速度は、従来の時速80キロが90キロになる。
 建設関連では、遅れが指摘される25年大阪・関西万博の会場整備に、さらなる重しとなる。災害復旧工事は緊急性を勘案し、上限規制を適用しない仕組みを設けた。ただ復興段階では一部規制が適用される可能性があり、長期に及ぶ場合は人員確保に影響しかねない。
■道内企業「解決難しい」
 時間外労働の上限規制は、道内への影響も懸念される。
 中でも物流について、野村総合研究所(東京)は道内の貨物総量のうち25年に30%、30年には39%が運べなくなると試算。北海商科大の相浦宣徳教授(地域物流)は「道内一律ではなく、札幌から遠く人手の確保がより難しい地方から物流が滞る可能性がある」と指摘する。
 石狩市の運送会社「ジャスト・カーゴ」では、時間外労働の上限規制に伴い、運転手の休憩時間を確保するため、荷物の積み込みを運転手以外の職員が手伝うことにしたという。清野敏彦社長(55)は「運転手が減り、荷物が届かない地域が出かねない。民間だけでは解決が難しい。国や行政にさらなる対策を求めたい」と訴える。
 
<ことば>働き方改革関連法 労働基準法、労働安全衛生法など8本の改正法で構成、2019年に施行された。罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制を初めて導入。「一般業種」の上限は原則、月45時間、年360時間とした。特別な事情がある場合でも月100時間未満(休日労働を含む)、2~6カ月の平均で80時間(同)、年720時間。違反すると罰金や懲役が科され、長時間労働抑制に効果が見込まれる。建設業、自動車運転業、医師は適用を5年間猶予し、時間数なども別々に設定した。

2024年4月1日 23:55(4月1日 23:56更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

 

・釧根基幹3病院は上限1860時間に 医師の時間外960時間規制も 将来の派遣確保に懸念

医師の働き方改革で時間外労働の上限を原則として年960時間とする規制が1日に始まり、釧根管内では救急医療を担う市立釧路総合、釧路労災、釧路赤十字の3病院(いずれも釧路市)が特例で上限を年1860時間とする病院として道の指定を受けた。一方、規制強化に伴い札幌や旭川から出張医が来なくなるなど大きな影響は出ていないもようだが、各病院とも将来的な懸念は抱えたままだ。
 市立根室病院は月に1度、週末の当直医を札幌圏の民間病院から確保していたが、時間外労働の上限規制で4月以降は派遣を継続できないと伝えられた。
 幸い「手を尽くして」(事務局)、関東圏から出張医を確保でき、事なきを得たが、将来的には「(派遣が停止になる)可能性は残る」と不安は払拭し切れていない。
 北大や旭川医大などの大学病院から出張医を受け入れている市立釧路総合病院と釧路労災病院は、派遣医を停止または削減するとの連絡は受けていないといい、現時点で診療への影響はないとする。背景には、大学病院側が時間外労働の上限を1860時間とする特例指定を受けていることなどがあるとみられる。
 だが、釧路労災病院は「年度途中で派遣が難しくなることがあるかもしれない。医師の派遣が永久に保証されたわけではない」と案ずる。市立釧路総合病院も「大学病院からは外来や手術などさまざまな形で応援をもらっている。途絶えると影響は大きい」と今後の行方を注視する。
 一方、釧根管内の基幹病院である市立釧路総合、釧路労災、釧路赤十字の3病院も1860時間の特例指定を受けた。当面は救急外来などへの対応で960時間の達成が困難なためだ。ただ、国は2035年度末までに1860時間の上限特例を解消する目標を掲げる。
 市立釧路総合病院は「患者と直接関わる外来や手術、検査などの時間を減らすことは難しいが、院内の会議など医師がコントロールできる業務は極力減らすよう、これまでも呼び掛けてきた」と説明する。今後も内部に設けたワーキンググループなどで適宜協議し、時間外労働が多い診療科や医師がないか検証し、対策を検討するとしている。

2024年4月1日 21:45北海道新聞どうしん電子版より転載