4月1日からの時間外労働の規制強化に伴う「2024年問題」で深刻化するバス、トラックの運転手不足に拍車を掛けているのが、タクシー業界への人材流出だ。タクシー運転手はスマホ配車アプリの普及と観光客の回復で効率よく稼げる環境が整い、札幌圏では他業種からの転職が相次ぐ。バス、トラック業界は危機感を募らせており、政府が打ち出した2024年問題対策の実効性を疑問視する声も上がる。

タクシーに乗車する高島晴美さん。トラック運転手から転職し、柔軟な勤務が可能になったという=12日、札幌市西区(宮永春希撮影)

■「学校行事にも参加しやすく」
 「タクシー運転手になって勤務時間を自由に選べるようになった上、給料も上がった。配車アプリなどを通じて1日20組ほど乗せ、売り上げは2万5千円から3万円ぐらい」。昨年10月にトラック運転手から東邦交通(札幌市)のタクシー運転手に転職した小樽市の高島晴美さん(42)は満足そうに話す。
 以前は2トントラックを運転していたが、午後11時に仕事を終え、翌日の午前3時から再びハンドルを握る先輩を見て、「続けるのは無理だと思った」。夫との共働きで2人の小学生を育てる。「子どもたちの学校行事にも参加しやすくなった」と笑顔を見せる。

北海道ハイヤー協会によると、札幌交通圏(札幌、江別、北広島の各市と石狩市の一部)のタクシー運転手は2月現在、6586人。コロナ禍の減車で19年の9003人から減少が続いていたが、昨年10月の6559人で底を打ち増加に転じつつある。観光客の回復で1台当たりの収入が増えたことに加え、配車アプリの普及で「客待ち時間」が短縮され、人気が高まった。60歳以上の退職は減らず、全体では微増にとどまるが、若手の就職が相次ぎ、平均年齢はこの半年で1歳近く下がった。
 東邦交通では昨秋以降、月10~15人が入社試験を受ける。20~30代が中心で、合格者のうち月2、3人はバス、トラック運転手からの転職だという。林章常務は「2024年問題でトラック運転手は残業代を見込んだ生活設計が出来なくなる。成果に応じた歩合制で給与が支払われることもタクシー運転手を選ぶ理由になっている」とみる。
 北海道バス協会の今武常務理事も「運転手の賃金はかつてトラック、バス、タクシーの順だったが、今はタクシーが一番稼ぎやすい」と話す。同協会の昨年9月の調査では、加盟事業者の8割が「運転手が足りない」と回答。タクシーへの人材流出と2024年問題で状況がさらに悪化することへの懸念が広がる。
 物流への影響も深刻だ。北海道トラック協会が昨秋行った調査によると、6割の事業者が運転手不足など2024年問題の影響が「ある」と答えた。先行き不安から、政府が2月に策定した2024年問題対策に対する不満の声が上がる。
 政府は、荷主との運賃交渉の目安となる「標準的な運賃」を平均8%引き上げるなどして、トラック運転手の賃金を10%前後引き上げたい考えだ。
 これに対し、道央圏の運送会社は「標準運賃は荷主が守らなくても罰則がない。引き上げても賃上げにつながるとは思えない」と批判する。
 野村総合研究所(東京)は昨年1月、2024年問題の影響で25年に道内の荷物総量の3割が運べなくなるとの推計を発表。その後、複数企業による商品の共同輸送や、トラック輸送の鉄道貨物への切り替えといった対策が道内でも広がるが、影響をどこまで軽減できるかは不透明だ。
 交通政策に詳しい桜美林大の戸崎肇教授は「物流問題の根本的な解決にはトラック運転手の賃上げが不可欠。国は、産業ごとに定める特定最低賃金を物流にも適用することを検討するべきだ」と指摘する。

2024年3月30日 20:18(3月30日 22:35更新)北海道新聞どうしん電子版より転載