2北海道から、また一つ短大がなくなります。
 学校法人北星学園は2月22日、北星学園大短期大学部(札幌市厚別区)の学生募集を、2025年度に停止すると発表しました。その1週間後には、拓殖大北海道短期大学(深川市)が保育学科の学生募集を同年度から停止すると明らかにし、教育関係者に衝撃を与えました。道内の短大数はピーク時に31校でしたが、現在は13校と半数以上がなくなっています。短大はもう必要ないのでしょうか?

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北星短大が入る大谷地のキャンパス。同じ学校法人の北星学園大学とキャンパスを共有している
「70年以上の歴史を持つ道内最古の短大ですから、苦渋の決断でした」。北星短大が募集停止を明らかにした日、大坊(だいぼう)郁夫学長は学長室で決断に至った背景をぽつりぽつりと語り始めました。
 同短大は、1951年に女子の高等教育を担う女子短大として開学。2002年度に男女共学化し、学生確保を図りました。しかし、入学者は想像以上の速さで減少します。1学年の定員が200人になった04年度以降、入学者は同年度の258人をピークに緩やかに減少していましたが、21年度に一度定員を割ると、22年度は定員の8割に、23年度は6割の120人に落ち込み、募集停止の決め手となりました。
 背景に、四年制大学に進む学生の増加があります。リクルート進学総研(東京)によると、道内は少子化で18歳人口が減少しているにもかかわらず、大学進学者は13年の1万5737人から、23年は1万7603人へ12%増加、大学進学率は34.3%から48.1%へ上昇しています。短大進学者は対照的に、10年間で2422人から1187人へ49%減少。進学率は5.3%から3.2%へ低下しました。

最近は専門学校の方が「資格取得や実践的な職業能力を身につけられる」と人気で、進学率は20%台前半で推移しています。大坊学長は「北星は一般教養を強みにしているので、より学問を追求したい学生は四年制大学へ、資格を得たい学生は専門学校に流れてしまう」と推測します。
 さらに追い打ちをかけたのが、文部科学省が20年度に大学や短大を対象に始めた修学支援制度です。返済不要の給付型奨学金と、授業料減免を合わせた制度で、これまで経済的理由から短大を選んでいた学生が、四年制大に入学しやすくなり、短大は学生確保が困難になりました。
 道内では、この30年間に18の短大が姿を消しました。
■文化女子大室蘭に専修大北海道… 出身校はありますか?
 短大は1950年、戦後の学制改革に伴い、全国で公私立計149校が開学しました。2~3年制の短期間に高度な専門職業教育が受けられるのが魅力で、主に女子高生の進学先として選ばれてきました。
 しかし、女性の社会進出に伴い、四年制大への進学率が上昇。文科省の学校基本調査によると、短大は96年度の598校を最多に、2023年度は300校に半減しました。日本私立学校振興・共済事業団の23年度の調査では、私立短大276校のうち、92%が入学定員を割っています。
 道内はどうでしょうか。

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全国と同様、ピークの1987~89年度の31校から、23年度は13校に減少しました。学生数は最多だった92年度の2万3406人から、23年度は3182人へ86.4%減りました。
 1989年以降、廃止や四年制大学へ改組した短大は18校あります。

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22年に北海道科学大短期大学部(旧道自動車短大、札幌市手稲区)が、昨年には札幌大女子短期大学部(札幌市豊平区)が相次いで廃止になりました。比較的、学生を集めやすい札幌や近郊でも廃止や改組が目立っており、短大経営の難しさがうかがえます。
 そんな中でも、札幌市北区にある北海道武蔵女子短期大学は女性の学びの変化に伴い、新たな学校づくりに挑戦します。
■4月、武蔵女子大学が誕生
 道武蔵女子短大を運営する学校法人北海道武蔵女子学園は今年4月、四年制の「武蔵女子大学」を開学します。新大学は経営学部(定員80人)の1学部で、マーケティングや心理学、デザインなどを横断的に取り入れながら、実社会で役立つ知識とスキルの育成を目指します。

4月に開学する武蔵女子大の1階ホール。短大と同じキャンパスを活用する

同短大は1967年、東京・武蔵大の同窓生らが同大の少人数教育を生かした女子の高等教育機関を道内につくろうと呼び掛けて開学しました。毎年多くの卒業生を航空業界や金融機関に送り出し、就職率の高さから道内の短大の中でも特に人気を集めてきました。4月に新大学の経営学部長に就任する吉地望・副学長は「短大だけでも十分経営できる自信はありましたが、四年制大志向の高まりの影響で、短大を選ぶ学生が想像より早く減ってしまった」と大学開学に踏み切った理由を明かします。2023年度の同短大の志願者は458人で、入学者は239人でした。ともに19年度と比べて4割減少しています。

■経済ではなく、「経営学部」のワケは
 道内の四年制大の進学率は右肩上がりとはいえ、18歳人口が減少する中、新たな大学の開学は大きなリスクが伴うのではないでしょうか。
 「だから、経営学部をつくるんですよ」と吉地教授は強調します。経済が専門の吉地教授ですが、目をつけたのは「経営学部」。企業や組織の経営を学ぶ経営学は、経済の仕組みを研究する経済学と、似て非なる学問です。吉地教授は道内高校生へのアンケートや外部機関の調査を踏まえ、女性の経営志向が高まっていると実感。経営学は就職で役立つと考える高校生が多いことも知り、需要があると確信しました。

武蔵女子大の1期生として今春入学する尾形さん

この春、経営学部に入学する小樽潮陵高3年の尾形愛友(あゆ)さん(18)は「将来、ウェブデザインの仕事をしたいので、マーケティングや心理学も学べる武蔵の経営学部で情報社会で生かせる力を身に付けたいです」と志望理由を明かします。尾形さんの高校では大半の生徒が4年制大に進学しており、「武蔵が大学じゃなかったら、志望しませんでした」と話します。
 一方、短大は早期に社会で活躍したい学生にニーズがあるとして、大学開学後も武蔵女子短大の教養学科(定員200人)と英文学科(同100人)は維持します。
■保育士を養成する釧路短大「短大は必要」
 短大がなくなり、影響はないのでしょうか? 短大は保育士や幼稚園教諭、栄養士、介護福祉士など、地域社会を支える人材育成に大きな役割を担っています。中でも保育士の養成施設は道内に28校ありますが、4割にあたる11校が短大です。
 そんな中、飛び込んできたのが拓殖大北海道短期大学が2025年度に保育学科の学生募集を停止するというニュース。入学者の大幅な減少が理由で、田中英彦学長は2月29日に同短大で開いた記者会見で、「保育人材を地域に送り出す役割を果たせなくなってしまい申し訳ない」と述べました。
 同じく保育士を養成する釧路短期大学(釧路)は危機感を募らせます。幼児教育学科は20年度以降、定員割れが続いており、23年度は定員50人のうち、入学者は28人にとどまりました。同学科長の井上薫教授は文科省の修学支援に加え、「新型コロナウイルスの流行で、中学、高校時代に保育所で就業体験をする機会が減ったことも影響したのではないか」とみています。
 釧路管内の保育士養成施設は、同短大と釧路市内の専門学校の2校しかありません。同短大の幼児教育学科の直近3年間の卒業生は82%が釧路管内に就職しており、道内全体では98%に上ります。保育士資格は四年制大でも取得できますが、井上教授は「大学に進学すると保育士以外の職業に就職する可能性が広がり、地元で就職する機会も減ってしまう。短大は地域に必要」と強調します。
 道内の大学の沿革を調べると、短大を発祥に発展した大学が多くあります。短大を必要とする学生や地域のためにどのように存続するべきか。在り方が問われています。(報道センター 若林彩)

 

2024年3月13日 10:00(3月14日 7:11更新)北海道新聞どうしん電子版より転載