手足の急速な壊死(えし)や多臓器不全を引き起こし「人食いバクテリア」との異名を持つ劇症型溶血性レンサ球菌感染症の報告数が昨年、記録のある1999年以降で過去最多となった。原因は子どもにのどの痛みなどの症状をもたらすのと同じ溶血性レンサ球菌(溶連菌)でありながら、時として激烈な症状を引き起こす。専門家に対処法などを聞いた。
 「患者は意識がもうろうの状態で救急搬送されてきて、数日でショック症状や多臓器障害を起こす。手足などに発疹ができて、数時間単位の経過でその範囲が広がって黒ずんでくることがある。毒素が全身に回るのを防ぐため、手足などを切断することもある」。患者の治療経験のある国立国際医療研究センター病院の岩元典子医師(総合感染症科)は劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症状をこう話す。致死率は約30%という。
 原因は、健康な人の皮膚やのどにも存在する溶連菌という細菌。球形の細菌が連鎖状につながり、血液を溶かす性質があるため、そう呼ばれる。感染経路は接触や飛沫(ひまつ)。子どもから大人まで幅広い年齢層で発症するが、30歳以上が多い。
 溶連菌にはさまざまな種類があり、劇症型に多いのはそのうちA群やB群、G群などだが、子どもの咽頭炎や皮膚の感染症を引き起こすのもこれらのタイプだ。劇症型の患者では基礎疾患がない人もいて、何が劇症化をもたらしているのか、分かっていない。
 最近の研究で、A群をさらに細かく分類した際のM1型のうち、英国で多く報告されている株で毒素の産生量が多く、感染性も高いことが分かり、厚生労働省が監視を強めている。だが、劇症型の患者からはこの株以外の溶連菌も見つかることから、菌の種類だけで劇症型を見分けることは現時点ではできていない。
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は感染症法で届け出の対象となった99年以降、毎年100人前後から数百人が報告されてきたが、2023年は941人と最多を記録した。今年も昨年の同時期を上回るペースで増加している。関連は不明だが、子どものA群溶連菌による咽頭炎の毎週の報告数は昨年秋ごろから過去10年で最多ペースが続いている。
 原因菌が子どもの咽頭炎の菌と同じで、劇症型と区別がつかないとすると、いったいどのように気をつければいいのだろうか。
 岩元さんによると、のどに激烈な痛みがある場合や、意識がおかしい場合、傷口が赤く腫れている場合は、医療機関を受診したほうがよい。受診しても劇症型か否かは検査で分かるものではなく、症状の急速な経過で判断するしかないという。
 患者の傷口から感染することがあるため、触れる際は注意が必要。家族が発症した場合でも、家庭内で感染が広がることは少ないが、65歳以上の高齢者や糖尿病患者、がん患者が家族でいた場合は、抗菌薬の予防投与の対象になることがある。
 厚労省などは、手洗いの励行やせきエチケットを呼びかけているが、これらは一般的な感染症対策として有効という。国際的にも増加が警戒されているが、感染力の低さから、新型コロナウイルスや新型インフルエンザのようなパンデミック(世界的大流行)になるとは考えられていない。
 岩元さんは「劇症型溶連菌感染症になるのは、溶連菌の中でも非常にまれなケースだ。子どもが溶連菌にかかっても咽頭炎の症状のみであればまず心配する必要はない」と話している。

2024年3月30日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載