渡島管内八雲町の国道でトラックが都市間バスに正面衝突した事故は、トラック運転手が体調不良を訴えていたにもかかわらず、勤務先が体調の確認を怠り、事故を防ぐ安全管理体制が不十分だった疑いが浮かび上がった。トラックを運行する業者には「安全運転管理者」や「運行管理者」の配置が義務付けられているが、道内では深刻なドライバー不足で、体調不良者の代わりを充てられないケースもある。管理者による体調の確認が形骸化している恐れもあり、実効性のある対策が求められている。

衝突で大破したトラック(右)とバス=2023年06月18日

「母は今でも事故を思い出し、『悔しい』と声を出す。ずっと元気だったのに…」。東京都の男性(64)は、八雲町のバス事故で重傷を負った母親(84)の近況を明かす。
 昨年6月18日、中学校の同窓会に出席するため、都市間バスで札幌市から同管内森町に向かう途中、事故に遭った。一命を取り留めたが、脊髄損傷で歩くことは困難に。男性は「会社側が安全対策をしていれば防げた事故。業界全体で事故が起きた意味を重く受け止めてほしい」と求めた。
 自社の業務で荷物を運ぶ「白ナンバー」の車を使う業者は、道交法に基づき、拠点の事業所ごとに安全運転管理者を選任する。有償で荷物を運ぶ「緑ナンバー」の業者は道路運送法などに基づき、運行管理者を置くと定められている。
 いずれの管理者も、運転手の体調や酒気帯びをチェックするほか、交代の要員を配置する役割がある。道警は、八雲町のバス事故で管理者が運転手の体調確認を怠ったと判断した。
 道内ではドライバー不足を背景に、体調不良でも長距離運転を余儀なくされるケースが少なくない。
 苫小牧市の男性ドライバー(46)は「若手が続々と辞め、体調不良を申告できない」とうつむく。持病のぜんそくで発熱することがあり、管理者に「休みたい」と伝えても、配送の遅れで取引先との信頼関係が崩れるため「当日の欠勤は困る」と言われた。八雲町のバス事故に「明日はわが身」と身をこわばらせる。
 札幌市の40代の男性ドライバーは昨年夏、新型コロナウイルス感染で39度の高熱を申告した。だが、上司から「明日は休んでいいから今日だけ運んでほしい」と指示され、ハンドルを握ったという。安全運転管理者は本来の役割を果たさず、事業所には代替のドライバーもいなかった。
 道内の運送会社幹部は「荷主との契約で指定日に必ず届けなければならず、運転手の体調不良を理由に断れない」と漏らす。
 安全確保のため、道内の大手製麺会社では準中型運転免許を持つ事務員を代替ドライバーとして配置し、体調不良の運転手が出た場合に備えている。運転手が遠慮なく休める態勢が欠かせないが、北海道トラック協会の樋口康弘専務理事は「人員が少ない中小企業では難しい」と語った。
 北海学園大の川村雅則教授(労働経済論)は「安全管理体制を維持できる人材確保に向け、国は業者に適切な料金が支払われる仕組みづくりを急ぐべきだ」と指摘する。

2024年3月22日 20:04(3月22日 21:42更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

 

・【八雲】渡島管内八雲町の国道で昨年6月、トラックが都市間高速バスに正面衝突し、バスの乗客ら5人が死亡した事故で、道警は22日にも、業務上過失致死傷の疑いで、死亡したトラック運転手=当時(65)=が勤務していた養豚会社「日本クリーンファーム」(青森県おいらせ町)道南事業所(八雲町)の道南生産管理部長(57)と安全運転管理者(51)を書類送検する方針を固めた。起訴を求める「厳重処分」の意見を付けるとみられる。捜査関係者への取材で21日分かった。
 捜査関係者によると、自社の業務のために荷物を運ぶ事業者に義務付けられる安全運転管理者が同容疑で立件されるのは極めて異例。
 道警は運転手が事故前、勤務先に体調不良を訴えたのに、安全管理を担う安全運転管理者と上司の部長が健康状態の確認を怠り、乗務させたのが事故を招いたと判断したとみられる。自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで、運転手も容疑者死亡のまま書類送検する。
 捜査関係者によると、部長と安全運転管理者は昨年6月18日、運転手に対する体調確認などの安全対策を怠り、運転手はトラックで豚を運搬中、八雲町野田生の国道で札幌市から函館市に向かっていた都市間高速バスに衝突し、バスの運転手と乗客3人の計4人を死亡させ、乗客12人に重軽傷を負わせた疑いが持たれている。
 事故は片側1車線の緩やかなカーブで発生。バスの後続車両のドライブレコーダーの映像などから、トラックが対向車線にはみ出し、減速しないままバスに衝突したとみられる。
 道交法では、自社の業務のために荷物を運ぶ「白ナンバー」を5台以上か、定員11人以上の車を1台以上使う事業者に対し、ドライバーを指導する安全運転管理者を置き、飲酒や体調の確認を求めている。
 道警などによると、運転手は事故前日から、安全運転管理者らに体調不良を訴えていたが、乗務させられていたという。同僚らには「熱がある」などと話し、風邪薬を服用していた。
 道警は安全運転管理者らが体調不良を把握しており、事故の予見可能性があったと結論付けたとみられる。

2024年3月22日 14:27(3月22日 23:07更新)北海道新聞どうしん電子版より転載