痛みを緩和する治療が様変わりしている。かつてはモルヒネなど限られた麻薬系の治療薬しかなかったが、相次ぐ新薬の登場や別の病気で使われる薬の活用で、治療の幅が大きく広がっている。麻薬系の薬と比べ、副作用も少なくなっており、患者の痛み軽減に効果を上げている。


■副作用、依存性考慮し使い分け
 札幌医大医学部麻酔科講師の澤田敦史医師によると、痛みは「侵害受容性疼痛(とうつう)」「神経障害性疼痛」「感覚変調性疼痛」の三つに分類される。
 侵害受容性疼痛は、非神経組織に対する実際の損傷またはそれに起因する痛みをいう。神経障害性疼痛は感覚神経の傷害や疾患によって生じる痛みで、末梢(まっしょう)神経の損傷、脊髄損傷、脳梗塞などが原因となる。
 感覚変調性疼痛は近年になってできた新たな概念だ。非神経性組織や神経障害がないのに起こる痛みだが、病態が分かっていないため、治療法は確立していない。
 疼痛の薬物治療は現在、さまざまな薬がある。このうちNSAIDs(エヌセイズ、非ステロイド性消炎鎮痛薬)は、痛みの原因物質の生成を抑える効果があり、第一選択薬として侵害受容性疼痛で使われる。
 うつ病で使われる抗うつ薬も近年、疼痛治療で幅広く使われている。SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)や、三環系抗うつ薬が、神経障害性疼痛で第一選択として使われる。神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン)の神経への再取り込みを阻害する効果があり、痛みを感じにくくする。半面、SNRIは活動性の低下、三環系抗うつ薬は口の渇きや便秘などの副作用がある。
 てんかん患者向けの抗てんかん薬も使われている。「ガバペンチノイド」で、神経細胞の異常な興奮を抑える効果があり、痛みを和らげる働きがある。神経障害性疼痛の第一選択薬の一つだ。脳の神経伝達も抑制するため、一日中眠くなる傾眠や、めまいなどの副作用がある。
 新薬も相次いでいる。リリカ(2010年発売)、タリージェ(19年発売)は、NSAIDsが効かない患者向けだ。いずれも帯状疱疹(ほうしん)などの末梢性神経障害性疼痛に効果がある。
 重症者向けには強い鎮痛作用のある医療用麻薬「オピオイド」が使われる。がん治療による痛みや、他の薬剤を用いても痛みが治まらない場合などに使用が認められている。
 澤田医師は「疼痛の薬物治療は患者の痛みがどの痛みに属するかを診断し、副作用や依存性も考慮して薬の種類を変える。薬は第三選択まであり、かつてと比べると治療の幅はかなり広がっている」と指摘。「疼痛治療で完治する人は少ない。日常生活ができるようになる、痛みが緩和されるのが治療の目標」と話す。

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澤田敦史医師
 疼痛治療は「ペインクリニック」を標榜(ひょうぼう)する医療機関が主に担っている。専門医が在籍する医療機関は日本ペインクリニック学会のホームページ(https://www.jspc.gr.jp/)に掲載されている。