【帯広】人口当たりの看護師数が道内最低水準の十勝管内で、人材確保の動きが活発化している。正看護師養成校が2023年度に2校開設されて計4校となり入学者定員は倍増。これまで都市圏に流出してきた人材の受け皿は整った。ただ、2年連続で定員割れとみられ、少子化が進む中、学生の確保が課題となっている。
 「どんな音がしますか」。帯広高等看護学院が2月17日に開いた初の小中学生向け見学会で、学生が人形の腹部に聴診器をあてる参加者に声をかけた。子どもたちに看護師の仕事に関心を持ってもらう狙いだ。
 学生が看護師の仕事を紹介した後、参加者は血圧測定や心臓マッサージも体験。将来の看護師確保を見据えた取り組みで、土森志乃副学院長は「今後、看護師の魅力を子どもに伝えていくことがますます重要になる」と話す。各高校で実施している進路ガイダンスを中学校向けに広げることも検討するという。
 十勝管内では看護師不足が常態化している。道が1月に公表した看護職員就業状況によると、22年12月末時点の10万人当たりの就業者数は1077.9人で道内平均を229人下回る。全道を6区域に分けた3次医療圏では、道東3区域が道内平均を割り込み、十勝は釧路根室よりも低い。

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原因の一つは、大学や専門学校などの正看護師養成校の少なさだ。管内の養成校は22年時点で2校と3次医療圏別で最も少なかった。看護師の多くは養成校時代の実習先に就職するケースが一般的で、養成校が増えれば地域の看護師確保につながる傾向があるという。
■管外進学6割
 十勝総合振興局保健行政室は「看護師志望者の都会志向も理由の一つ」とし、札幌などに流出していると分析する。道によると、19年時点で管内の看護師志望者の6割が管外に進学していた。
 志望者の流出を防ごうと、管内では受け皿づくりが進む。十勝管内音更町の帯広大谷短大は昨年4月、道内の短大で唯一の看護学科(3年制、1学年40人)を新設。病院や介護施設など計約70カ所の実習先を確保し、幅広い職場で働ける人材を育てる考えだ。
 帯広市医師会も昨年、3年課程の看護専門学校(1学年定員35人)を開校。准看護師を養成する看護高等専修学校から転換した。市も土地の無償貸し付けや約1億6100万円の整備費補助で地域医療の担い手確保を後押しする。
 養成校の新設で、管内の入学者定員は150人と従来の2校計75人から倍増した。帯広大谷短大は「札幌や旭川の養成校を受験するしかなかった学生を取り込めている」とみるものの、4校合計で現1年生は全体で119人、新年度入学者は130人前後で2年連続定員を下回る見通しだ。
 高齢化で訪問看護など医療、介護現場で看護師ニーズが増加する一方、少子化は加速。道教委は23年に2878人だった管内の中学卒業者は30年には約400人減ると推計する。なり手不足が見込まれる中、帯広看護専門学校の加藤由美教務部長は「コロナ禍で現場の過酷さを知り、さらに志望者が減っている」との危機感を示す。
■離職防止策も
 看護師不足解消には、現役看護師の離職防止策も重要だ。帯広第一病院(帯広市)は2人一組で働く「パートナーシップ・ナーシング・システム看護方式」を19年に導入。相談しやすく、業務も分担できるため負担軽減や安心して仕事ができると好評で、年間の離職率が導入前の30%から10%前後に下がったという。
 北海道看護協会の川渕ゆかり常務理事は「働き方に対する考え方はさまざま。多様な働き方を選択できる職場環境を整えれば、離職者の復職にもつながりやすい」と話している。

学生から心臓マッサージの方法を教わる小中学生ら=2月17日、帯広高等看護学院(加藤哲朗撮影)

2024年3月16日 17:33(3月17日 21:22更新)北海道新聞どうしん電子版より転載