同性同士が婚姻できない現行法は違憲との判断を二審で初めて示した札幌高裁の斎藤清文裁判長(59)は判決を言い渡す際、はっきりとした口調で、抑揚を付けながら読み上げた。
 1990年に任官し、前橋地、家裁高崎支部長から2023年6月に札幌高裁部総括判事として着任した。同11月には、岩見沢市の山林で女性の遺体が放棄された事件に関連し、被害女性の母が損害賠償を求めた訴訟を担当。女性の死亡と覚醒剤の投与との因果関係を認めなかった一審判決を変更し、因果関係を認めた。
 さいたま地裁の裁判長だった2019年12月には、長野県軽井沢町で乗客ら15人が死亡したスキーツアーバス事故の損害賠償を巡る訴訟で、バス運行会社などに約8800万円の支払いを命じる判決を出している。

2024年3月14日 23:18北海道新聞どうしん電子版より転載

 

・同性婚・札幌高裁判決要旨

【札幌高裁判決】
 ▽性的指向
 同性愛者は婚姻が許されていないため、社会生活上の不利益を受け、アイデンティティーの喪失感を抱いたり、社会的な信用、評価、名誉感情などを維持するのが困難になったりするなど、人格が損なわれる事態となっている。
 性的指向は生来備わる人としてのアイデンティティーで、個人の尊重に関わる法の保護は同性愛者も同様に享受されるべきだ。同性愛のみならず、愛する対象が異性と同性の双方の場合、性を自認できない場合なども同じように考えられる。
 ▽憲法14条1項
 憲法14条1項は法の下の平等を定め、差別的な取り扱いを禁止する趣旨だ。立法府の裁量権を考慮しても、取り扱いの区別に合理的な根拠が認められない場合は同項違反と判断すべきだ。
 性的指向と婚姻の自由は重要な法的利益だが、同性婚は許されていない。それにより同性愛者は制度的な保障を享受できず、著しい不利益を受けている。性的指向の区別は合理的根拠を欠いており、憲法14条1項に違反する。
 ▽憲法24条
 憲法24条1項は、人と人の自由な結び付きとしての婚姻をも定める趣旨だ。同性間の婚姻も異性間と同じ程度に保障していると理解できる。憲法制定当時は同性婚が想定されておらず、両性間の婚姻を定めているが、文言のみにとらわれる理由はなく、個人の尊重がより明確に認識されるようになったとの背景のもとで解釈するのが相当だ。
 24条2項は、婚姻や家族に関する立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきだと定めている。憲法上の権利に至らない国民の人格的利益をも尊重し、婚姻が事実上不当に制約されないことにも十分に配慮した法制定を要請している。
 同性婚を許さず、これに代わる措置を一切規定していないのは、憲法24条の規定に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っていると認めるのが相当で、24条に違反している。
 ▽国民世論
 国民に対する調査でも同性婚を容認する割合はほぼ半数を超えている。否定的な意見を持つ国民もいるが感情的な理由にとどまっている。啓蒙活動によって解消していく可能性がある。同性婚を可能とする国・地域は30を超えている。同性婚について法制度を定めた場合、社会的な影響も含め、不利益・弊害が生じることはうかがえない。
 ▽付言
 同性婚を許さない規定は、国会の議論や司法手続きで違憲だと明白になっていたとは言えず、制度設計についても議論が必要だ。だが違憲性を指摘する意見があり、国民の多くも同性婚を容認している。社会の変化を受け止めることが重要だ。
 同性婚を定めることは国民に意見の統一を求めることを意味しない。個人の尊厳を尊重することであり、同性愛者は日々の社会生活で不利益を受け、喪失感に直面しており、対策を急いで講じる必要がある。喫緊の課題として、異性婚と同じ制度の適用を含め、早急に真摯な議論と対応が望まれる。2024年3月14日 20:05(3月14日 23:45更新)北海道新聞どうしん電子版より転載