国が推奨する五つのがん検診で、上川管内23市町村の受診率に大きな差が出ている。都市部の旭川市や隣接する東神楽町などは低い一方、中富良野町などの農村地域では早朝の検診が奏功し、受診率は道内平均を大きく上回っている。がんの早期発見と早期治療で命を守るため、受診のしやすさや費用の助成、個人への積極的な呼び掛けが受診率向上の鍵を握っているようだ。
 12日、旭川がん検診センターは、がん検診を受ける人たちで混み合っていた。同センターによると、3月の受診者数は1日平均100人ほど。2019年3月は1日平均約120人が訪れており、新型コロナ禍前の水準には戻っていない。同センターの小林あつみ主任保健師は「受診率が低いままだと、がんの早期発見の機会が失われてしまう」と危機感をあらわにする。

旭川市が22年度に実施したアンケートでは、受診の必要性を感じず、時間の確保が難しいと考える市民が多い傾向が浮かび上がった。検診を受けない理由は「(持病を)医療機関で治療している」が最多の28.2%。「費用がかかる」が17.7%で続き、「仕事で忙しい」「機会がない」がそれぞれ17.1%だった。
 今まで受診したことがないという旭川市の主婦木原美里さん(53)は「がん検診の必要性はあまり感じていない。市から案内は届いていた気もするけど」と話す。
 道のまとめによると、21年度時点で旭川市は胃、肺、大腸の各がんで全国平均を下回る受診率。ベッドタウンの東神楽町も、胃、肺、大腸、乳がんの受診率が管内で最も低かった。
 一方、人口規模が小さい農村部では、中富良野町や南富良野町が全道平均を大きく上回っている。
 胃、肺、大腸で管内トップの受診率だった中富良野町は総人口の2割が農業者だ。町は、農家ら国民健康保険加入者を対象とする特定健診の実施日と同じ日にがん検診の機会を年4回を設け、そのうち2回は午前6時から行っている。午前中の作業前に農業者に受けてもらう狙いで、町福祉課は「農業者以外も仕事前に受診できると好評。まだまだ受診率向上を目指して取り組みたい」と話す。
 南富良野町も対象者に個別で電話をかけて受診を促している。
 受診費用の負担額は小さくなく、助成も重要だ。がん検診受診料は胃、肺、大腸がんで合計約1万円。さらに、乳、子宮頸がんも合わせて受けると合計2万円を超えるケースが多い。

旭川がん検診センターの待合室は旭川市や近郊から訪れた多くの受診者で混み合う=12日

旭川市の場合、助成によって胃、肺、大腸の3項目の受診で約1300円。5項目全てを受診しても約3千円の自己負担で済む。
 ただ、助成額や対応する検診内容は自治体で異なる。
 東神楽町は旭川がん検診センターでの受診に助成を限っている。「センター以外の受診でも助成を」との声に応え、対象医療機関を広げる方針だ。
 士別市は、受診申し込み方法を改善した。婦人科がん検診の受診予約を電話と保健福祉センターの窓口に加え、昨年度からインターネットと、土曜日も対応するコールセンターに拡大した。効果は表れ始め、市保健福祉センターの黒沼美穂保健師は「40、50代の受診者が伸びた」と手応えを語る。新年度から全てのがんに対象を広げる。
 旭川市は新年度、情報発信に力を入れる。4月から導入する「あさひかわ健幸(けんこう)アプリ」の通知機能で受診を促す。旭川市保健所の渡辺顕久次長は「対象初年度に通知し、その後も継続して検診を受ける人を増やしていきたい」と話している。
■早期発見へ継続重要
旭川医科大学社会医学講座の西條泰明教授(公衆衛生)の話
 国が推奨する五つのがん検診は、受診する利益があります。早期発見には継続して受けることが重要なのです。
 道民のがんによる死亡率は2020年から3年連続で都道府県別で2番目に高いままです。道民は喫煙者が多く、野菜の摂取量も少ない。がん検診の受診率の低さも要因の一つと考えられるでしょう。
 受診率が向上しない要因は地域によってさまざまで分析は難しいです。ただ、個別に検診を周知して受診機会を広げ、地元医師会と連携し、かかりつけ医でも受診を促すなどして、受診率向上を目指すべきだと考えます。 
<ことば>がん検診 国はがんの早期発見の利益が大きいとして、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸(けい)がんの5種類のがん検診を推奨している。大腸がん、肺がんは40歳以上が1年に1回、胃がんは50歳以上が2年に1回(当面、40歳以上は1年に1回も可能)、乳がんは40歳以上が2年に1回、子宮頸がんは20歳以上が2年に1回の検診をそれぞれ勧めている。

2024年3月14日 18:20(3月14日 18:46更新)北海道新聞どうしん電子版より転載