白老町中心部にある町立国保病院。敷地内で移転し来年5月の開院を目指す

 

【白老】胆振管内白老町立国保病院で、診療報酬の過大受給や職員への給与過払い、病院内の高齢者施設での虐待など、1年余りの間に不祥事が次々と明らかになった。業務を現場任せにしてきた町の管理体制の甘さが背景にある。同病院は経営難から廃止も検討されたが住民の強い思いで存続を決めた経緯があり、現在、全面改築工事が進行中だ。2025年に新規開院が控える中、再生に向けた組織改革が求められている。
 「ずさんとしか言いようがない」「町民にとって本当に必要な病院なのか」。2月20日の町議会全員協議会で、診療報酬1億2586万円の過大受給を報告した大塩英男町長に厳しい指摘が相次いだ。
 同病院は昨年10月の北海道厚生局の調査で、夜間の病棟看護師の配置に関する基準を満たしていないと指摘され、診療報酬の一部返還を求められた。村上弘光事務長は記者会見で「勤務管理は看護師に任せており把握できていなかった」と説明。大塩町長は「町役場全体として病院改革に取り組む」と理解を求めた。
 これに先立つ23年8月には、医師らを対象とした給与加算を事務職員に誤って適用し、約325万円を過大に支給していたことなどが判明。22年12月には院内の介護老人保健施設「きたこぶし」で職員による入所者への虐待が発覚し、施設は23年末に廃止された。
 町側は給与過払いを「組織的な判断やチェック体制が機能していない状況だった」とし、虐待も「把握していなかった。虐待防止の体制を整備しておらず、職員教育も不足していた」と認めるなど、ガバナンス(統治)の弱さが露呈した。

 内科、外科、小児科の3科で病床数48の同病院は、常勤医4人のうち2人が今月末に退職予定で、医師の確保はかねて悩みの種だ。常勤医の退職と補充を繰り返す中、入院患者は14年度の延べ約1万2千人から23年度は同約5千人と6割減る見込み。病院事業会計の収支不足も拡大し、14年度以降、一般会計からの繰入金は年間2億~4億円台に上る。

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慢性的な赤字を抱える病院の存廃は長く町の懸案だった。13年には当時の戸田安彦町長の私的諮問機関が町民の利用率の低さも理由に「廃止か民間売却が必要」と答申。17年には病床をなくして診療所に縮小させる案が俎上(そじょう)に載った。
 ただ「駆け込める病院が地元に必要」との思いは高齢者を中心に根強く、廃止や縮小の話が出るたびに反対署名が集まった。町は存続を決断し、1966年完成の老朽化した建物を敷地内で改築する計画(総事業費35億8千万円)を策定。病床は40床に減らし2025年5月の開院を予定する。
 入院患者は減っているものの、外来は過去10年平均で年間約2万8千人、救急は約600人を受け入れるなど地域医療に果たす役割は小さくない。23年3月には町内に三つあった民間診療所の一つが廃止され、重要性はむしろ増している。
 それだけに、存続を求める住民団体の会長だった宗像千恵子さん(89)は「不祥事が続くことは残念」と歯がゆさを口にする。改築を機に「風通しが良い、町民に信頼される病院になってほしい」と訴える。
 大塩町長は初当選した23年3月の町長選で病院改革を公約に掲げ、就任直後の町議会で「うみを出し切る」と明言した。病院側に任せてきた医師の採用に自ら関わるほか、理事職を新設し病院経営に詳しい外部専門家を招くなどの改革に24年度に取り組む方針だ。
 地域医療に詳しい城西大の伊関友伸教授は「権限の強い特別職の病院事業管理者を置くなど体制を一新する必要がある。不祥事が続いたことをチャンスと捉え、抜本的な改革に乗り出すべきだ」と話している。

2024年3月9日 17:18(3月9日 21:59更新)北海道新聞どうしん電子版より転載