2月28日夜、岩手県陸前高田市高田町下和野にある災害公営住宅団地の自治会役員会。

 「次の会長をやっていただける方はいないですか」

 83歳の福田靖・自治会長が呼びかけた。しかし、応じる人は誰もいなかった。

 病死した前任の後を託されて5年。福田会長は毎年、任期の1年が終わるころに頼んでいるが、受けてくれる人は見つからない。

 2014年に完成したこの団地は、市役所に隣接し、商店や病院にも近い利便性の良さから人気があり、120戸のうち115戸に入居者がいる。NPO「陸前高田まちづくり協働センター」の理事で、災害公営住宅の活動を支援する黄川田美和さん(45)は「100世帯を超す団地で、役員ができる人はいないわけではない」と話す。

 ただ、つながりがない。

 福田会長も「初期からの入居者とは親しいが、後で入った人のほとんどは、入居時にあいさつに来て、それっきり」。団地1階には市社会福祉協議会が運営する市民交流プラザがあり、平日には毎朝、十数人がラジオ体操をした後、談笑する光景が日常だ。だが、顔ぶれはほぼ決まっている。

 さらに3年続いたコロナ禍で、新年会などのイベントができなくなり、再開できていない。昨年夏には、独居の女性が部屋で孤立死しているのが発見された。

 2月に行った住民へのアンケート結果によると、「自治会が何の活動をしているのか、わからない」という回答が多く見られた。

 まず顔見知りになって自治会活動を知ってもらわないと、いきなり担い手は増えない状況だ。

 福田会長は、役員を輪番制にすることを提案しようと思っている。通路の電気代などの共益費の集金は、各階ごとの班長が1カ月交代の輪番制で担い、各戸から集めている。集金の機会が住民や自治会活動との接点になっている良い面があり、役員も輪番制にして、自治会との接点を増やしてもらうことが頭に浮かぶ。

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 岩手県内の災害公営住宅で65歳以上の被災者が占める「高齢化率」は、市町村営で46・1%(2023年9月現在)に上り、県営では39・7%(同年12月現在)で、県全体の高齢化率35・2%に比べると高い。

 しかし、災害公営住宅は被災者以外の入居者も受け入れていて、入居者に占める割合は県営、市町村営とも4分の1前後になっている。災害公営住宅だから高齢化が著しい、とはいえない。下和野団地では、3分の1以上が一般入居者で、全体の高齢化率は市全体とほぼ同じ40%だ。

 それでもコミュニティーの担い手が足りない。全国の地方の縮図ともいえる。

 2月10日、下和野団地の住民らを含む岩手、宮城、福島3県にある14カ所の災害公営住宅の役員や関係者が、宮城県多賀城市の災害公営住宅の集会場に集まり、意見交換する交流会が開かれた。

 どこも事情は同じだが、カフェに集う人の有志が高齢者を毎月訪問したり、子ども向けイベントを企画して団地内外の交流をはかったりと、工夫しながらコミュニティーを維持する自治会もあった。下和野団地自治会からの参加者は「声かけから始めなければいけない」と刺激を受けていた。

 国は25年度までを第2期復興・創生期間としていて、それを区切りに多くの復興事業の終了が予想されている。下和野団地の市民交流プラザの予算も削減されそうで、スタッフが平日5日間常駐するのが難しくなれば、不在の日は住民がカバーする案も出ている。

 黄川田理事は「行政は企画や書類作り、民間団体は現場のコーディネートなど、得意分野を生かした『協働』の実践が不可欠だ」と指摘する。その上で、目指すべき姿を語る。

 「住民自身で試行錯誤し、最終的に自分たち支援者がいなくなってもやっていける。それを目指す方向性に基づき、我々は支援しなければいけない。非常に時間はかかるが」(東野真和)

 

「ふれあい、つながりづくりが自治会の役割」。災害公営住宅の課題を話し合った交流会では、参加者らの意見を付せん紙で並べた=2024年2月10日、宮城県多賀城市、東野真和撮影

 

高齢化進む災害公営住宅 コミュニティー担い手の確保必要

大規模災害公営住宅で行われるラジオ体操には、お年寄りたちが毎朝集まってくるが、顔ぶれはほぼ同じだという=2024年2月29日、岩手県陸前高田市、東野真和撮影
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朝日新聞社 によるストーリー • 2024年3月10日 11時00分