夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は、個人の尊重や婚姻の自由を保障した憲法に違反するとして、札幌や東京などの男女6組が8日、国に対し、別姓のまま婚姻できる地位の確認や、慰謝料計600万円の損害賠償を求める訴訟を札幌、東京の両地裁に起こした。弁護団によると、同様の提訴は道内で初。原告は札幌と東京で会見し「一日も早い選択的夫婦別姓の実現を」と訴えた。

提訴後の記者会見で「改姓しないという選択肢を認めてほしい」と訴える佐藤万奈さん(右)と西清孝さん(舘山国敏撮影)
 札幌訴訟の原告は札幌市の佐藤万奈さん(37)と西清孝さん(32)の事実婚夫婦。
 訴状によると、現行制度は従来の姓を諦めるか、婚姻を諦めるかの「過酷な二者択一を迫るものだ」と主張。氏名と結びついた社会的評価など「人格的利益」や個人の尊重を保障する憲法13条と、婚姻の自由を定めた同24条1項に反するとする。
 実際に改姓するのは女性に偏っており、婚姻に関して両性の平等に立脚した法整備を義務づける憲法24条2項にも反すると主張。国会が必要な立法措置を怠っていると訴えている。
 佐藤さんと西さんは提訴後に札幌市内で記者会見した。2人は2019年に法律婚をし、佐藤さんが夫の西さんの姓に変えた。勤務先の病院で名札などが瞬く間に変わり「ずっと『佐藤万奈』として生きてきたのに、消えてしまう気がした」と振り返る。適応障害を発症して退職した。「互いに改姓しないという選択肢を増やすだけなのに、なぜこんなに認められないのか」と訴えた。
 2人は互いの姓を名乗るため、20年に「ペーパー離婚」した。西さんは葛藤の末、事実婚を受け入れた。「女性だけの問題ではない。男性も改姓するかもしれないという当事者意識を持つことで議論が進むはず」と法改正を望んだ。
 東京訴訟の原告の1人、団体職員上田めぐみさん(46)=十勝管内幕別町出身、東京都在住=は、十勝管内の各市町村議会に、夫婦別姓制度の導入に向けた意見書の採択を働きかけるなどの活動もしてきた。自身は姓を変えることへの違和感から事実婚を選んだが、手術で家族の同意が必要な場合など緊急時の対応に不安を抱える。「意に沿わない改姓を強いられる苦痛は一生もの。思いを届けるために裁判官と対話するような気持ちで訴訟に臨みたい」と話す。
 現行制度を巡っては最高裁大法廷が15、21年に「合憲」と判断。ただ、15年判決では裁判官15人中5人、21年決定では4人が「違憲」とする意見を付した。

2024年3月8日 19:30(3月8日 20:48更新)北海道新聞どうしん電子版より転載