「お帰りなさい。冷え込んできましたね」。1月下旬の午後5時、函館市堀川町の更生保護施設「巴寮」に暮らす男性たちが、職場から帰ってきた。職員が声を掛けると、うなずいて会釈し、それぞれの居室へと向かう。
 更生保護施設は主に更生保護法人が運営し、保護観察所の委託を受けて、刑務所や少年刑務所を仮釈放された保護観察中の人などを受け入れている。家族がいないなど、身寄りがなく、すぐに自立が難しい人たちが対象で、住まいや食事を提供。就職の援助や生活の助言なども行い、生活基盤が安定するまで支援する。巴寮は男性専用の施設で定員20人。6畳ほどの個室を備え、2月末時点で32~75歳の13人が暮らす。

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巴寮で入寮者(左)と話をする施設長の長舩浩義さん

 

■他施設には断られ
 「ここがなければ、刑務所の外には出られなかった」。そう話す、島津文雄さん(75)=仮名=は関東出身。長期間の服役の末、昨年春に宮城県の刑務所を仮釈放された。親戚や知人など身を寄せられる先がなく、関東の更生保護施設には刑務所内での懲罰を理由に断られるなどした。そうした中で、ようやく受け入れてくれたのが、巴寮だった。現在は入寮者をとりまとめる班長を務める。
 島津さんは、23歳の時に強盗殺人の罪を犯し、長期刑に。仮釈放中に再び傷害と強盗の罪を犯し、服役期間は合わせて40年を超えた。2度の事件はともに飲酒後に起こしたことから、寮の職員の勧めで、断酒会に月2回ほど通う。会では服役していた経験も隠さず話し、道南の人たちとのつながりもできてきた。
 入寮して間もなく1年。今後は、函館でアパートを借りて暮らすつもりだ。「罪は一生背負わなければならない。函館で支えを受けながら、暮らしていきたい」。島津さんは静かに語った。
 更生保護施設は2023年4月時点で全国に102施設ある。法務省によると、22年に保護観察所などが更生保護施設に新たに委託したのは5236人で、このうち仮釈放者が7割を占める。
■道南以外から大半
 巴寮は、1907年(明治40年)に函館監獄の藤井大威教戒師らが設立した「函館出獄人保護会」が起源の、更生保護法人「函館創生会」が運営している。平均の入寮日数は約90日。関東など道南以外の出身者が大半を占め、島津さんのような長期受刑者や累犯者も多い。希望者の多い首都圏などの施設を罪が重いために断られた人や、「知らない土地で更生したい」と自ら希望して入寮する人もいる。
 施設長の長舩浩義さん(63)は「寮生が直面している経済状況や家庭環境の課題は個々の職員では対応しきれないほど大きい」と打ち明ける。高齢者らを担当する職員や薬物依存者を担当する職員など7人の常勤職員が中心となり、入寮者を支えている。長舩さんは、会話を絶やさないことで、寮生のわずかな変化も見逃さないよう注力する。「犯した罪は消えないが、ここでは寮生の人としての尊厳を大事にしなければならない」
 2022年度、巴寮には36人が入寮した。このうち、14人は退寮後も函館で暮らす。民間のボランティアや、就職に協力する企業の支えで、近年は函館に定着する人が増えている。

 道南唯一の更生保護施設巴寮には、全国の刑務所を出所した人たちが集まっている。再起を図ろうとする人たちや、更生を支える人たちの姿を追った。(梶蓮太郎が担当し、3回連載します)

2024年3月6日 21:46(3月6日 22:13更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

法務省:更生保護施設等 (moj.go.jp)