マグロの刺し身や錦糸卵が載った色鮮やかなちらしずしが、テーブルに並んだ。肉じゃがやホウレンソウのおひたしも添えられた栄養満点の「おふくろの味」を、男性たちが顔をほころばせて、次々にほおばる。刑務所を仮釈放された男性ら13人が暮らす函館市の更生保護施設「巴寮」の日曜夜のおなじみの光景だ。


巴寮の夕食でちらしずしや肉じゃがを振る舞う函館東更生保護女性会のボランティア=2月4日

 

■毎週日曜夜の恒例
 料理を振る舞うのは、道南の女性有志でつくるボランティア団体「函館更生保護女性連盟」のメンバー。19地区の会員542人(2023年4月1日時点)が持ち回りで、毎週日曜の夕食を作る。材料費として、1人1食400円が巴寮から支払われるほか、メンバーが自宅から食材などを持ち寄ることもあるという。
 2月上旬のこの日は、函館東更生保護女性会が担当し、保護観察対象の少年らを支援する若者のボランティア団体「函館BBS会」の大学生も参加。宿直の職員も含め19人分を、5人が約2時間で完成させた。入寮者の男性(68)は「ボリュームがあって満腹になる。アットホームな雰囲気で安心します」と笑顔を見せた。函館東更生保護女性会の勝又真澄副会長(62)は「頼りにできる家族がいない入寮者も、『おふくろの味』を味わえば温かい気持ちになれるはず。それが更生につながれば」と話した。
 巴寮には、函館市内の保護司でつくる函館地区保護司会の活動拠点「更生保護サポートセンター函館」も隣接。休日は保護司が巴寮の施設管理や見回りを担当し、連携して入寮者を支えている。
■待遇も社員と同様
 巴寮が何より力を入れるのが、入寮者の就職支援だ。函館保護観察所に登録されている、出所者を雇用する「協力雇用主」は建設業や製造業など110社(23年4月1日時点)。巴寮はこうした雇用主と入寮者をつないできた。
 製造業や運送業に人材を提供する函館市内の人材派遣会社では、巴寮を通じて就職し、5年以上働いている人もいる。担当者は「例えば、突然逮捕されて連絡がつかなくなるといったリスクはどの社員も同じようにある。真面目に働く出所者もおり、前科があるという理由で扱いを変えることはしていない」と強調。希望すれば社宅に住むことができるなど、福利厚生面も他の社員と同様だという。
 別の協力雇用主のもとで働く元入寮者の男性は、土木関係の仕事で道内各地の現場を回っている。「仕事をしていれば、悪いことをしようと思う時間もない」と充実した表情で語った。
 それでも、罪を犯した人に対する社会の目は依然として厳しい。就職を希望していても、住所が巴寮であることから前科があると知られ、採用されないケースも多い。近年は、インターネット上に犯罪歴が実名や顔写真とともに半永久的に残る「デジタルタトゥー」も出所者らの立ち直りを難しくしており、関係者を悩ませている。
 退寮後も不安定な状況の中で自立を目指す出所者たち。こうした中、巴寮は、彼らを継続的に支援しようとする新たな取り組みを始めた。

2024年3月7日 21:34(3月7日 22:36更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

法務省:更生保護施設等 (moj.go.jp)