大規模な自然災害が毎年のように起こる日本で、男女共同参画の視点からの防災・減災は喫緊の課題と言える。災害時に女性が直面する問題とその要因は何か。解決へ何が求められるか。東日本大震災での女性支援者と、「災害女性学」を研究する専門家に聞いた。(有田麻子)

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■多様性尊重した支援を

NPO法人イコールネット仙台常務理事・宗片恵美子さん
 災害というと力仕事がイメージされ、男性の分野と考えがちです。でも女性は2011年の東日本大震災で、さまざまな支援に取り組みました。女性たちにはもっと前に出てほしい。リーダーシップを発揮できる仕組みづくりが求められます。
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むなかた・えみこ 2003年、イコールネット仙台を設立。東日本大震災後は洗濯代行や語り合いの場づくりなどに取り組んだ。内閣府男女共同参画会議議員などを務める。共著に「女たちが動く―東日本大震災と男女共同参画視点の支援」(生活思想社)。74歳

 

災害時における女性のニーズ調査を、震災の3年前となる08年に実施しました。仙台市に住む1100人から「要介護の親を連れてどう逃げるか」「避難所で障害のある子を受け入れてくれるか」といった不安が寄せられました。お年寄りや子ども、障害者をケアする役割を担ってきた女性たちだからこその視点です。こうした声をもとに提言をまとめました。
 当時は女性たちが抱える困難を訴えても「大変なのは女性だけじゃない」などと批判されました。女性の視点は多様性の尊重につながると説得しましたが、自分ごととして捉えてもらうのは難しかったです。
 しかし避難所に身を寄せる人の半数は女性。女性の視点を欠いた運営ではおかしいのです。
 震災での避難所は雑魚寝状態で更衣室も授乳室もなくプライバシーは皆無。「夜中に知らない男性が隣に寝ていて体を触られた」という女性もいました。
 調理室が使える避難所では「リーダーは男性、炊き出しは女性」と役割が固定され、早朝から夜10時まで女性たちが3食の準備と後片付けに追われ、調理室から離れられず、疲れ切っていました。
 11年9月、宮城県内の女性1500人に調査すると、復興計画策定の議論の場に女性の参画が必要だと答えた割合は85%に上りました。震災で困難と混乱を経験したからこその数字だったと思います。
 避難する人々は多様です。なにも快適にする必要はありません。ただ一人一人が安心できる場所であってほしいのです。そのためには、地域の人が中心となり避難所を運営すること、そして、その中に女性もリーダーとして入ることが必要です。
 平時にある課題は災害時に顕在化し、深刻化します。子どもを保育園、親を介護施設に預けて仕事をしていた女性たちの多くは、被災後に預け先を失って職を失いました。女性は非正規雇用の割合が高く、真っ先に解雇の対象になったのです。きめ細やかな支援体制が必要です。
 国は地方防災会議委員のうち女性の割合を25年までに30%を目標にしています。現在は都道府県で19%、市町村で10%。男性が多い警察や消防などからの推薦で選ばれる「充て職」なので難しい、とよく言われます。でも、学識経験者や自主防災組織などからも任命でき、私も入っています。自治体は人材の掘り起こしに努めるべきです。
 徳島県や鳥取県など、関係団体に女性の推薦を働き掛けて女性比率が4割を超えた自治体もあります。やる気次第でできないことはないのです。
 私たちは、13年から3年間「女性のための防災リーダー養成講座」を実施しました。受講者約100人は避難所運営マニュアルの作成や防災訓練の見直しに携わったり、避難所ワークショップを開いたりと現在も活躍中です。全国でこうした動きが広まり、女性が主体的に防災に関わることが重要だと考えています。
■ジェンダー視野不可欠

宮城学院女子大学教授・天童睦子さん
災害は、普段隠れているジェンダー(社会的・文化的性別)の不均衡を浮き彫りにします。避難所運営の性別分業、女性の家庭責任の強調、ドメスティックバイオレンス(DV)被害、女性が多い非正規職の解雇、世帯主規範がもたらす支援体制の偏り―。覆われていたベールがはがれ、問題は一気に浮上するのです。

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てんどう・むつこ 仙台市出身。早大大学院教育学研究科博士後期課程修了。名城大人間学部教授を経て、2015年から現職。専門は女性学、教育社会学。著書に「女性のエンパワメントと教育の未来」(東信堂)、共著に「災害女性学をつくる」(生活思想社)など。67歳。

 

 私は東日本大震災から10年の節目に「災害女性学をつくる」という本を仲間と共に刊行しました。防災・復興の分野で、ジェンダーの視点による理論的・学問的な枠組みが不可欠だと考えたからです。
 非常時に流布する言説には注意が必要です。東日本大震災では「絆」という言葉が注目されました。地域の支え合いが大切なのはもちろんです。でも、避難所に身を寄せる人々を「疑似家族」ととらえて、「絆」で乗り越えようとするあまり、個々の事情や多様なニーズは後回しにされ、大変な時に「わがままだ」と抑え込む危うさが見受けられました。安全な空間の確保に必要な避難所のパーティションを、「家族だから要らない」と撤去した例もあったと聞きます。
 災害時は特に、女性をはじめ、子ども、高齢者、性的マイノリティーなど、他者の立場に立ち、いかにその痛みを想像できるか、声を上げにくい人の声をすくい上げるかが問われています。
 能登半島地震の、間仕切りもない避難所の様子を報道で見るにつけ、過去の教訓が生かされているのかと気がかりでした。女性たちの安全を守る発想はあったでしょうか。
 1995年の阪神・淡路大震災では、DVや性被害に対して声を上げた女性たちの切実な訴えが届かなかった例もあるといいます。その後、地元の女性団体を中心とする性暴力防止に向けた地道な活動や、2001年の配偶者暴力防止法の成立なども相まって、東日本大震災においては、国はいち早く女性に対する暴力防止を呼びかけました。もっとも、表に出ない被害は少なからずあると推察しますが、日常時のジェンダー平等の達成度は被災時に生きるのです。
 災害のリスク管理における政策決定の場に、ジェンダーの視点が不可欠だというのは、もはや世界の常識です。15年に仙台市で開かれた第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」では、基本となる考え方として「とりわけ女性や若者のリーダーシップが重要」と掲げられています。
 何から手をつければ良いのでしょうか。都道府県防災会議で女性委員が占める割合が2割に届かないのは、はっきり言って論外です。一定の発言力を発揮できる「クリティカル・マス」と呼ばれる3割を超えることが大前提です。
 その上で、防災の担い手になる人たちは男性も含め、人権とジェンダー平等について学ぶべきです。「人としての尊厳」を保障すること、そして必要な配慮に関するセンスを、男女問わず磨いてほしい。実践を支える理念を身につけることは非常に重要です。自治体の職員研修から始めるのもいいでしょう。地域の男女共同参画センターも中心的な役割を果たせると期待します。

2024年3月6日 10:25(3月7日 7:34更新)北海道新聞どうしん電子版より転載