3月8日の国際女性デーは、国連が制定した、ジェンダー平等と女性差別の撤廃を実現するための、連帯と行動の日。人生のさまざまな段階で直面する、女性ならではの困難の解決に取り組む道内の女性たちを取り上げるほか、農業に生き生きと取り組む女性たちの活動を、今日とあすの2回にわたって紹介する。
■「お下がり」で人つなぐ 「相互支援団体かえりん」(札幌)・星野恵さん
 産後の女性たちが家から出て人とつながる機会を提供しようと、一般社団法人「相互支援団体かえりん」(札幌市中央区)は、使わなくなった子ども服を交換する「お下がり交換会」を手がける。代表理事の星野恵さん(42)は「助け合うことで育児は楽になると実感してほしい」と話す。
 スーパーやホテルなど協力店舗に回収ボックスを設置し、集まった子ども服を会場に並べ、来場者は好きな服を詰め放題で持ち帰れる。参加費は500円。延べ参加者数は6千人を超える。札幌に限らず、室蘭や千歳などでも開催している。
 団体は2016年、子育て中の女性5人で設立。転機は、星野さんの友人が産後うつになり統合失調症と診断され、乳児を残して自ら命を絶ったことだった。「友人の死を意味のあるものにし、産後うつを防ぎたい」。孤独な母親が一歩を踏み出すきっかけにと「お下がり」に目をつけた。
 自身も長女の出産後、見知らぬ土地でのワンオペ育児でうつ状態を経験した。団体では、子連れで参加できる茶話会やオンラインの交流の場を設ける。女性の復職を後押ししようと、企業に対するコンサルティングも行う。

「母親同士で助け合える仕組みをつくっています」と話す星野恵さん


■母親の心身をサポート 「室蘭産後デイケアステーション」・竹内えり子さん
 出産前後の母親をケアする民間資格「産後ドゥーラ」を持つ登別市の竹内えり子さん(44)は、母親の心身をサポートする事業「室蘭産後デイケアステーション」を室蘭市内で行っている。
 長女を2012年に出産。周囲に頼れる人がおらず苦労した経験から、「育児に精いっぱいで、休めないお母さんの力になりたい」と、活動に賛同する市内の助産師と2人で月4日間運営している。
 場所は住宅メーカーのモデルハウス。1日3組限定で親子を受け入れ、育児の悩みを聞いたり、睡眠不足で横になっている母親の代わりに子どもの面倒を見たりする。自宅にいるような、くつろげる場所を提供するのが特徴だ。
 1回3千円で、午前10時半~午後3時の時間内なら何時間いてもよい。昨年4月に始めて延べ40組が利用した。
 また、個人としても0~1歳半の子どもを持つ家庭を訪問し、おむつ替えや沐浴(もくよく)、部屋の掃除など幅広く母親をサポートしている。竹内さんは「母体が健康でいることが、親子の良い関係づくりにもつながる。安心できる産後環境をつくりたい」と話す。

「子育てを頑張るお母さんのことを一番に考えて支援していきたい」と話す竹内えり子さん


■虐待防止へ自分が動く 函館中央病院・小児科医・石倉亜矢子さん
 函館中央病院の小児科医石倉亜矢子さん(54)は、子どもの虐待防止の勉強会「チャイルドファーストはこだて」(CFH)を主宰する。医療機関や自治体、児童相談所や福祉など子どもに関わるさまざまな立場の市民100人以上が参加し、地域の実情を学び合っている。
 医師となり、両足の裏が凍傷の小学生や不自然な脳出血がある子など虐待が疑われる子どもを診てきた。2010年に同病院に「院内児童虐待防止委員会」を設立。「虐待防止を児相だけに任せるには限界がある。自分たちができることに気づき、行動しなければ」と感じ、15年にCFHを立ち上げた。
 父の転勤で、小学校と高校時代を米国とフランスで過ごした。養子や再婚同士など多様な家庭があることが当たり前で、性教育も具体的だった。大学は研究職を目指して医学部に進学したが、人の一生に関われたらと臨床の道に。「同じ人間なのに、国や環境が違えば全然違う。誰かの一生に携わって助け合う仕事がしたい」と話す。
 21年には院内に「こども子育て支援室」も開設した。「子育てする人に、一人じゃないと思ってほしい。助け合えば、もっと生きやすい社会になると思う」

「地域の大人がつながって子どもを守りたい」と語る石倉亜矢子さん


■苦しさを話せるまちに 「苫小牧市クローバーの会」会長・宇多春美さん
 保護が必要な女性を支援する団体「苫小牧市クローバーの会」会長を2018年から務める宇多春美さん(65)は11~23年に苫小牧市議を3期務めた。市議引退後も「苦しい気持ちを誰かに打ち明けられる優しいまち」を目指し活動する。
 同会は10年設立。デートDV(ドメスティックバイオレンス)防止へ中高生への啓発にも力を入れ「DVの例や相談先を記したカードの作成に加え、他団体ともさらに協力したい」と話す。
 1期目の市議会初登壇時に男女平等政策を質問した際、男性議員が9割を占める議場の空気が冷たくなったと感じた。議会が夜まで長引くと男性議員から「家族のご飯の支度はいいの」と言われた。「議会こそ変わらねば」と思った。
 超党派女性市議4人で22年、市議らを対象に性教育がテーマの講演会を開催した。人権教育の観点で正しい性教育普及を目指す市内の30代の助産師に講師を頼み、「男性市議にも、性教育の意義が伝わった」という。
 市が13年に男女平等参画都市宣言を行って10年余。「宣言を飾りで終わらせず、性別問わず互いを認め合う人権教育や人材育成が必要。人と人をつなぎ、まちづくりに反映させる役目を続ける」

「誰もが互いを認め合う社会を目指したい」と話す宇多春美さん


■起業後押し 地域に元気 「アイディ・デザインオフィス」(北見)・鹿又百合子さん
 北見市で「アイディ・デザインオフィス」を経営する鹿又百合子さん(49)は、起業を目指す女性を支援するため、市などが開く講座で相談員を務める。
 受講者の多くが社会の課題解決や地元に貢献したい思いが強いとし、「女性の力を活用すれば地域が元気になる」と強調する。
 札幌の短大卒業後、北見の印刷会社に就職。2012年に独立し、現在のデザイン事務所を立ち上げた。
 5年目を迎えた講座にはこれまで111人が参加。がん治療などによる髪形の変化をカバーする美容室、農家による無農薬などの材料にこだわったパン店など、本年度は少なくとも22人が市内で起業した。
 女性は自らの子育て経験や食へのこだわりなどが強みになる一方、採算性や事業計画を後回しにしがちという。講座では会話を通じ、経費や単価、稼働時間など数字を可視化し、具体的な経営ビジョンを描けるようアドバイスする。また、事業継続には不採算分野の廃止など「柔軟性を持つことが重要」とも指摘する。
 「起業の時期に遅い、早いはない。生き生きと働く親の姿は子どもの夢にもつながる」

「女性の力を活用すれば地域が元気になる」と強調する鹿又百合子さん


■産後の働き方に新しい選択肢 女性の起業 10年前より48%増
 女性の起業は男性より少ない。日本政策金融公庫北海道創業支援センターによると、2022年度の創業前後1年以内の融資先数のうち、女性は男性の約3割にあたる261だった=グラフ=。
 一方、10年前の12年度と22年度を比べると48・3%増で、長期で見ると女性の比率は増加傾向にある。同センター上席所長代理の山崎公寿(たかひさ)さん(43)は「起業が女性たちの働き方の選択肢の一つになりつつある。育児や介護の分野などで(社会問題の解決を目指す)ソーシャルビジネスを志す割合が高い印象」と話す。なお、20年度の数字が突出しているのは、新型コロナ下の特別貸付制度による影響という。
 同公庫の「新規開業実態調査」(23年度)によると、全国の開業者に占める女性の割合は24・8%と調査開始以来最も高かった。専修大学商学部教授で、女性の起業に詳しい鹿住倫世(かずみともよ)さん(60)は背景に、コロナ下でIT技術の活用が進み、お金をかけず、オンラインで始められるビジネスが増えたことと、若い女性社長のロールモデルの存在を挙げる。
 鹿住さんは「第1子出産を機に離職する女性の割合は約4割で、いったん労働市場から離れると再就職のハードルは高い。小規模でも自分でビジネスを始め社会とつながることが、自己効力感と、エンプロイアビリティ(就職しやすさ)を高める」と期待する。

2024年3月8日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載