• 京都市で2019年、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者林優里さん=当時(51)=からの依頼に応じ殺害したとして、嘱託殺人罪などに問われた医師大久保愉一被告(45)の裁判員裁判で、京都地裁は5日、懲役18年の判決を言い渡した。検察側は「安楽死が許容され得る最低限の条件(下記参照)も満たしておらず、社会的相当性はない」と主張。別の殺人罪と合わせ、懲役23年を求刑していた。

 起訴状などによると、元医師山本直樹被告(46)=同罪などで実刑判決を受け控訴=と共謀し19年11月30日、林さんの自宅マンションで嘱託を受け胃ろうから薬物を注入。搬送先の病院で死亡させたとしている。
 公判で検察側は「老人や死にたいと願う患者は積極的に殺害する対象」という自らの思想を実践するため、医療知識を悪用したと強調。ビジネスとして入念に事件を計画し、病状の詳細を把握しないまま短時間で殺害に及んだと非難した。
 弁護側は、被告の行為がなければ林さんは「死を迎える恐怖と闘いながら生を強いられることになった」と主張。林さんの願いを実現しており、嘱託殺人罪適用は自己決定権を保障した憲法に違反するとして無罪を訴えていた。

2024年3月5日 16:54(3月5日 17:31更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

 

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・ALS患者嘱託殺人で医師に求刑 あまりに短絡的で罪深い

 2019年、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性に依頼され殺害した罪などに問われている医師の裁判員裁判で2月1日、検察側は懲役23年を求刑した。
 その前に行われた被告人質問などでは、被告の医師は「女性の願いをかなえるために行ったこと」と主張、死に至る処置を行う間際に、女性が文字盤を使って被告に「『死なせて』とおっしゃっていた」「目に涙を浮かべてうれしそうにされていた」などとも話した。
 一方、女性の父親は意見陳述(検察官による代読)で、「なぜ思いとどまるよう説得できなかったのか。心底恨みます」と述べたそうだ。
 重い病で苦痛が強く、回復の見込みもない場合、医師は「鎮静」という手段を取ることがある。適切な鎮静では命が短くなることはないと言われるが、意識のレベルが下がり会話ができなくなることなどから、世の中には「これはゆっくりとした安楽死なのではないか」といった声もある。
 しかし、「患者の死亡」を意図して行われる安楽死と、「死が早まることはできる限り避けたい」という気持ちを持ちながら苦痛を緩和する鎮静とは、それを行う医師にとってはまったく異なるものである。また、弁護側は「患者の自己決定権に基づいた」と言っているが、その場合の意思が本人の本意なのか、苦痛が強すぎたり周囲に迷惑をかけたくないと思ったりすることから生まれた一過性のものなのかの判断もむずかしい。
 いずれにしても、長年、かかわりのあった主治医でもなく、SNSで知り合っただけという今回の被告のような医師が、簡単に「本人が望んだからかなえた」というのはあまりに短絡的と言わざるをえない。
 ALSのような難病に侵されながらも精いっぱい生きている患者さんたちが、今回の事件でどれほどつらい思いをしたか。それを考えても、医師という患者の生命の鍵を握ることもできる職業の被告が行ったことは、あまりに罪深いと言えるだろう。判決は3月5日に言い渡される予定だ。(香山リカ、毎週金曜に更新)
 ☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。精神科医、総合診療医。北海道むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。『大丈夫。人間だからいろいろあって』『しがみつかない生き方』など著作多数。2024年2月2日 7:22北海道新聞どうしん電子版より転載

 

 

)・日本における判例-積極的安楽死が認容される条件-
次に挙げるのは東海大の事例についての判例による条件である。
(1) 耐え難い肉体的苦痛がある
(2) 死が避けられず、その死期が迫っている
(3) 肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段がない
(4) 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示がある
判例プラス・アルファ
次のa,bは東海大以前にあった判例からの補いである。c,dは思い付くままに付加したもの。
(a) 医師が行う
(b) 死をもたらす手段が、本人に苦痛を与えるようなもの、残酷なもの であってはならない
(c) 患者の意思確認のプロセスは十分なコミュニケーションとケアによるものである
(d) 医師の独断ではなく、医療チームとしての合意による

安楽死正当化の条件 - 東京大学文学部・大学院人文社会系研究科より転載