災害時に妊産婦や乳幼児らを専門に受け入れる福祉避難所の整備が徐々に広がっている。自治体が学校やホテルを避難場所に指定し、派遣された助産師が心身のケアに当たるケースも。能登半島地震で重要性が再認識され、専門家は「各自治体がニーズを把握し、安心して過ごせる環境づくりを進めてほしい」と話す。

 1月中旬、大阪府泉大津市のホテルに、おむつや離乳食入りのバッグを抱えた親子連れが次々と到着した。この日は1泊2日の避難体験会。6歳、3歳、0歳の子どもと参加した母親(37)は「平日に災害が起きたら、自分一人で3人の面倒をみないといけない。リュックを背負って歩けるかどうか試したかった」。

 体験会には市内の親子13組が参加。レジ袋とタオルを使った応急的なおむつの作り方や、少量の水を入れたチャック付きポリ袋で洗濯する方法などを学んだ。がれきに見立てた積み木の上をベビーカーで移動する体験では、保護者が「車輪が動かない。普段は必ずベビーカーだが、避難する時は抱っこひもがいい」と納得した様子だった。

 泉大津市は二つのホテルを専用の避難所に指定し、2023年から体験会を実施している。政狩拓哉危機管理監は「子育て世代は仕事や育児に追われ『何を備えたらいいか分からない』という声も聞く。体験会を通じて理解を深めてもらえたら」と期待する。

 神奈川県逗子市は23年、私立の学校を妊産婦や乳児専用の避難所に指定。災害時には助産師を派遣し、体調管理や精神的ケアに当たる。東京都文京区の先行例を手本にしたという。

 1995年の阪神大震災以降、高齢者や障害者、妊産婦ら「要配慮者」向けの福祉避難所の必要性が認識されるようになった。ただ日常的に介護や福祉サービスの対象となる高齢者、障害者に比べ、妊産婦や乳幼児の支援は広がりに欠ける。

 吉田穂波・神奈川県立保健福祉大大学院教授による2021年人口動態統計の分析では、健常者58・8%、高齢者29・1%、障害者7・6%に対し、乳幼児4・5%、妊産婦0・6%。関東地方の自治体の担当者は「どうしても人口が多い高齢者への対策が優先されてきた」と打ち明ける。

 乳幼児は夜泣きをしたり走り回ったりするため、子育て世帯は一般の避難所の利用を避ける傾向がある。16年の熊本地震を経験した育児中の女性に対し「熊本市男女共同参画センターはあもにい」が実施した調査では、本震直後の生活場所は「自宅敷地内(車中泊を含む)」が最多だった。避難所と回答した人も、半数以上が建物内ではなく車で寝泊まりしていた。

 吉田教授は「妊産婦や乳幼児がいる世帯は、周りに迷惑をかけないように『自分さえ我慢すればいい』と考えてしまいがちだ。自治体が避難ルールを事前に決め、周知しておく必要がある」と指摘している。

 <ことば>福祉避難所 一般の避難所で生活するのが難しい高齢者や障害者、乳幼児、妊産婦、難病患者ら「要配慮者」を受け入れる避難所。災害対策基本法に基づき市区町村が指定するものと、施設側と協定を結んで確保するものがある。高齢者施設や障害者支援施設のほか、ホテルや旅館に開設されることもある。内閣府によると、2022年12月時点で全国に計2万5356カ所。

■旭川は登録制で宿泊施設に

 旭川市は小中学校の保健室などを福祉避難所に指定しているが、これとは別に、洪水時などは妊産婦らの避難所として宿泊施設を利用できるよう旭川ホテル旅館協同組合と協定を結んでいる。利用できるのは、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域などに住む妊婦や生後半年未満の子を育てる人らで、事前登録が必要。災害時に市が施設を指定し登録者に電話連絡する。

 札幌市は福祉避難所を「要配慮者二次避難所」と呼び、要介護者らとともに新生児や臨月の妊婦らを対象としている。直接避難はできず、一般の避難所から移りたいとの希望を基に市が必要性を判断し二次避難所と調整する。利用法を説明したパンフレットや候補施設一覧をホームページに掲載、宿泊施設団体とも協定を結んでいる。一般の避難所では必要に応じて福祉避難スペースを設ける。対象は出産前後各8週の妊産婦や授乳中の親子ら。

2024年3月2日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載