女性ホルモンの分泌の減少により、閉経前後の女性が不快な症状に悩まされる更年期。男性にも更年期はあるが、女性の場合は症状がある人のうち2割が離職したか、離職を検討しているとする調査もある。偏見を恐れて職場に相談できず、一人で悩みを抱え込むほか、そもそも更年期による不調と気付かない場合もある。専門家は医療機関での受診や職場での研修の必要性などを指摘する。


 夫と内装業を営む札幌市北区の女性(50)は、43歳の時に更年期症状を自覚した。職人肌で経営への関心が低い夫に無性に腹が立ち、声を荒らげた。「夫の性格は知っているはずなのに、なぜこんなにイライラするんだろう」。自分でも不思議だった。
 3~4年後には、気分が落ち込み「死んでも構わない」と思ったり、強いめまいに襲われたりするようになった。めまいのため脚立に上れず、急きょ現場の仕事を休んだことも。友人の勧めで産婦人科を受診し、更年期による症状と診断されて漢方薬を飲み始め、症状は軽くなった。
 「ようやく体が動き、笑えるようになった。自分をいたわりながら、仕事を続けたい」。仕事量は減らせないので、家事を「思い切り手抜き」して、仕事と両立させているという。
 女性の更年期症状は、卵巣の働きが低下して女性ホルモンの分泌が減少するのが要因。公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会(東京)などが2021年に行った調査では、過去3年以内に何らかの症状を経験した女性は50~54歳で52.3%(男性は9.9%)、55~59歳で42.8%(同11.7%)、45~49歳は34.9%(同7.6%)。このうち女性の7割、男性の8割が医療機関で受診していなかった。
 症状を経験した人のうち、離職した女性は9.4%、離職を検討した女性は10.2%に上る。離職の理由は「仕事を続ける自信がなくなった」「症状が重く、働ける体調ではなかった」「職場に迷惑がかかると思った」など。約6割が「(職場の)誰にも相談しなかった」と回答した。
 更年期の相談などに応じる助産院ハイジア(札幌市南区)の佐藤みはる院長は、「更年期の症状は適切に治療すれば、働き続けられる場合が多い」と、症状がつらい場合はまず医療機関を受診するよう勧める。専門医は日本女性医学学会のホームページで紹介されている。
 治療には、生活習慣の見直しや心理療法のほか、ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬などの薬物療法がある。佐藤さんは、更年期を迎える前に知識を身に付け「私は仕事を続けたいので、治療を視野に入れておこう」「まず漢方薬から始め、つらくなったらHRTへ」など、事前に心づもりをしておくよう提案する。
 「更年期症状が出ても慌てず、自分の体をケアしながら、(仕事、趣味など)好きなことを続けられるのが理想」と話す。
 職場にも配慮が求められる。女性の社会進出などを背景に、全国の45~59歳の働く女性は1064万人(2022年度)と、10年間で25%増えた。特定社会保険労務士の本間あづみさん(札幌)は「エフ休暇(エフは英語で女性を表すfemailの頭文字)」など、更年期のほか月経痛や不妊治療時などにも利用しやすい休暇を設けたり、年次有給休暇の時間単位での取得、柔軟なテレワークなどを認めるよう助言する。
 相談しやすい職場環境も必要という。「(従業員の健康管理に取り組む)『健康経営』には、更年期への対応も含まれます。厚生労働省が配信するセミナー動画を管理職研修で活用するなどし、更年期をタブー視しない職場環境づくりを」と促している。(市村信子)
 
<ことば>女性の更年期 閉経の前後約5年ずつ、計約10年間を指す。日本人女性の閉経は平均50.5歳だが、40代前半~50代後半まで個人差がある。更年期には女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、自律神経のバランスが崩れるなどして、顔のほてりや発汗などの不快な症状が現れる。症状が重く、生活に支障を来す状態が更年期障害と言われる。男性の更年期(50代以降)もあり、男性ホルモン(テストステロン)の分泌が減って、女性と似た症状が起きる。

2024年2月27日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載