函館市柏野町の特別養護老人ホーム「恵楽園」を運営する社会福祉法人恵山恵愛会の菅龍彦理事長(60)は22日の記者会見で、入居者に2年以上前から不適切な身体拘束を行っていたことについて「短時間ならよいという甘い考えがあった」と述べた。新型コロナウイルス禍での職員不足や職員とのコミュニケーション不足などの要因もあったとし、再発防止を図るとした。

 同法人によると、職員による函館市への内部通報などを受け、昨年12月10日に身体拘束の事実を確認。2月初旬に市へ報告書を提出したが、拘束を行っていた期間を再確認して訂正するため持ち帰った。来週にも再提出し、家族にも謝罪するという。拘束を確認したのはベッドの四方を柵で囲んだ6人と、下着の中の排せつ物を触る「弄便(ろうべん)」を防ぐために体にシーツなどを巻いた2人。昨年12月25日以降は行っていない。

 菅理事長は会見で、ベッド柵の設置は入居者の転落防止のため、シーツを巻いたのは入居者に下半身の炎症があり、弄便による汚れを防ぐためなどの措置だったと説明。職員が新型コロナに感染して人数が減り「こういう対応をせざるを得なかったというのがあったと思う。人手不足の中(身体拘束をする際は同意を得るなどの)手順を飛ばしてしまった」と話した。

 職員から身体拘束についての相談はなかったとし「私自身が利用者、職員とのコミュニケーションを取ることが必要。事例の周知や外部研修への参加を促したい。信頼を取り戻してもらえるよう、地道な努力をしていきたい」と話した。(梶蓮太郎、鹿内朗代)

■職員多忙 理解示す声も 他施設関係者

 恵楽園で職員が入居者に不適切な身体拘束をしていた問題では、道南の特別養護老人ホームの職員から「理解できなくもない」との声が漏れた。道の調査では介護保険施設従事者の2割以上が「虐待しそうになったことがある」と回答。背景には人手不足や閉鎖的な職場環境があるとみられ、専門家は「拘束した後の工夫や風通しの良い職場環境が必要」と訴える。

 「身体拘束はゼロを目指している。ただ、人手不足が深刻化する中(恵楽園の件は)理解できないわけではない」。函館市内の特養ホームの男性職員はこう打ち明けた。施設には寝たきりや認知症の高齢者がおり、胃ろうを外してしまうなどやむを得ない場合には身体拘束をすることもある。別の施設の職員も「どの施設も大変。それでも、拘束ではない方法や工夫を考えなくては」と話した。

 道が昨年、道内の介護従事者を対象に行った調査では高齢者への虐待について、23.9%が「行いそうになった」と回答。理由は「ストレス」が66.7%で最も多く、「人員不足や多忙さ」が59.8%だった。虐待しそうになった時に周囲に相談したのは半数にとどまった。相談しない理由は「相談しにくい雰囲気がある」(47.4%)、「自分の立場が悪くなる恐れがある」(38.8%)だった。

 介護関連の研修を行う天晴れ介護サービス総合教育研究所(愛知県)の榊原宏昌代表(46)は「身体拘束がすべて悪だとは言えないが、一時的な措置後は別の方法を行うなどの工夫が必要。職員が発想を変えなくては、人手が増えても虐待は起こる。『こんなものでしょ』と思わず、違和感があったら相談できる環境が大切」と語る。一般社団法人日本介護協会(事務局・神戸市)の平栗潤一理事長(41)は「身体拘束を行うとしても、期間は定めるべきだ。第三者に評価してもらうなど取り組みを『見える化』し、外部の力も借りるのが望ましい」と強調。介護コンサルタント会社「ねこの手」(東京)の伊藤亜記代表は「研修などで事例を学ぶことが重要。職員のストレスマネジメントも意識してほしい」と指摘した。(川内晴貴、鹿内朗代)

2024年2月22日 21:59北海道新聞どうしん電子版より転載