■1日、道新旭川政経文化懇話会から「親不孝介護で離職を防ぐ」
 私の著書名で使っている「親不孝介護」という造語があります。これは介護に向かう姿勢を表現した言葉です。「何としても親のために頑張ろう」と意気込むより「親不孝で申し訳ないと思っている」と肩の力を抜いて対処する家庭の方が、良い介護体制だったことを示したかったんです。
 大学卒業後、2年間は別の業種で働き、その後、介護職に転じました。現場に出て一番悲しかったのは、親の介護を頑張っているのにどんどん顔が曇っていく人を見たとき。中には怒鳴ったり、手が出たり。家族の介護で追い込まれている姿は悲しかった。
 私が生まれた1980年は高齢者1人を7.4人で支えていましたが、2020年には2.2人。あまりに早い高齢化で、かつての介護体制は通用しない時代です。要介護となった理由もさまざまあり、脳卒中や認知症、心疾患では介護の方法が全然違います。一口に「介護」とくくられますが、一般人が多様な介護術を身に付けているでしょうか。それは難しいでしょう。
 介護のため離職する人は年間10万人ほどいますが、今後増加が見込まれています。ただ人手不足も深刻です。非常に極端な言い方ですが「『介護なんか』のために辞めるのはもったいない」です。社内の制度や公共サービスを活用すれば、絶対に離職を防ぐことができます。私は年間700件の相談を受けていますが、離職が必要なケースは1件もありません。早く相談すれば絶対に大丈夫です。
 介護に関する意識調査で、家族間で介護することが「親孝行」と考える人が6割を超えました。さらに介護が理由で離職した半数以上は、介護開始後2年以内だったという結果も出ました。ただ、離職したとしても最期のみとりまでに精神的に追い詰められ、家族の関係が壊れることが多いんです。つまり、介護のため長期休業を取得するのはハイリスクなのです。
 仕事と介護をてんびんに掛けてしまいがちですが、絶対にダメです。必ず両立できます。両立のためテレワークを取り入れる人もいますが、私は反対です。実際にコロナ下でテレワークが浸透しましたが、介護離職者は減りませんでした。四六時中一緒にいると、親は子どもに依存します。食事や排せつなど自分でできることを手放し、介護状態が促進されてしまうのです。
 介護は早めの対処が肝心です。親が元気なうちに地域包括支援センターに相談すれば、いざというときにスムーズな支援が受けられます。そして家族間の介護はやめましょう。介護のプロであっても自分の家族の介護は難しく、絶対にやりません。客観的で冷静な人が介在することが大切で、必要な時に介護のプロを頼ればいいのです。
 では、家族の効果的な関わりとはどんなものか。それは愛情を注ぐことです。介護作業はプロに任せ、愛情表現をできる余裕を持つことです。これこそ家族のできる唯一の役割です。そのためにも、親が元気なうちに専門家に相談してほしいと思っています。
 家族間での介護は、ヤングケアラーも生みます。家族で一致団結して支えるのは美しい姿かもしれません。子どもも喜んで介護参加しているように映るかもしれません。しかし、次第に勉強や友達、テレビなど子ども自身の時間が取れなくなり、学校で孤立していくかもしれません。意図せず子どもの人生を左右してしまう可能性があります。だからこそ家族で介護を抱えてはいけないのです。
 遠距離での介護も可能だと思います。施設入居はもちろん、独り暮らしでも。離れていても使えるサービスは意外とたくさんあります。遠距離でのメリットは「客観的に判断できる」「感情的にならない」「親が地元を離れずに済む」の三つ。近距離での見守りは安心できず、もっと不安になります。離れているからこそ最期まで優しく見守ることができるはずです。(構成・小林健太郎)

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 かわうち・じゅん 1980年、神奈川県出身。上智大文学部社会福祉学科卒。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」を設立。14年にNPO法人化し、代表理事に就任。

2024年2月20日 21:57(2月20日 22:16更新)北海道新聞どうしん電子版より転載