土曜ドラマ「お別れホスピタル」2月3日(土)スタート〈全4回〉
毎週土曜[総合]午後10:00~10:49 

お別れホスピタル - NHK

 

末期がんなど重度の医療ケアが必要な人や、在宅での療養が難しい人を受け入れる療養病棟。
土曜ドラマ「お別れホスピタル」は、その最前線で「限りある生のかたち」を求めて奮闘する看護師・辺見 歩を主人公に、「死を迎えること」「生きること」の意味を問う人間ドラマです。

原作は、産婦人科を舞台に描いた「透明なゆりかご」でも知られる沖田×華さんの漫画。「透明なゆりかご」に続いて安達奈緒子さんが脚本を担当し、辺見役を岸井ゆきのさん、辺見と共に療養病棟を支える医師・広野誠二を松山ケンイチさんが演じます。

チーフ演出の柴田岳志ディレクター(以下、柴田D)に、作品のテーマや演出のこだわりについて聞きながら、ドラマの見どころを紹介します。

あらすじ

ある町の病院にある療養病棟。そこには余命数か月と判断された人や、病状に加えて認知症などで日常生活が困難な人が入院している。病棟で働く看護師の辺見(岸井ゆきの)は、さまざまな事情を抱える患者やその家族に向き合い、限られた患者の日々が最善であるよう日々奮闘している。

しかしある日、患者の思わぬ行動が、辺見や一般病棟から異動してきたばかりの医師・広野(松山ケンイチ)の心に影を落とす…。

「お別れホスピタル」ここに注目!

──柴田さんは「透明なゆりかご」の演出も担当されていました。前作では新たな命が生まれる産婦人科が舞台だったのに対し、今回の「お別れホスピタル」は終わりゆく命を見届ける療養病棟が舞台。生と死という対極のテーマをドラマ化するにあたって、どんな思いがあったのですか?

柴田D:人は必ず亡くなるし、「死」は誰もが避けて通れないテーマですが、自分や家族が元気なうちはなかなか身近なこととして感じられないものです。僕自身も若いころはそうでした。しかし年齢を重ねる中で、いつか自分も体の自由が利かなくなる時がくる、身近な人の死や親の介護などを通じて、今はその予習をさせてもらっているのだという感覚が芽生えてきたのです。
そんなときに読んだのが沖田×華さんの漫画『お別れホスピタル』でした。以前ドラマ化した「透明なゆりかご」では、命が生まれる場であると同時に、命が失われる場でもある産婦人科を舞台に、「生まれる」「生きる」ということを見直そうというのが作品のテーマでした。生と死は対極に見えて実は表裏一体である。それが、沖田さんの作品の大切なテーマであり、今回の「お別れホスピタル」でも「透明なゆりかご」とは反対側から見た生と死が描かれています。

療養病棟は、人生の最期を迎える場所であり、人生の最期を“生きる”場所でもあります。「きょうのご飯は何かしら?」と看護師さんやほかの患者さんと交わすさりげない会話が、実はその人が生きている証しであり、かけがえのない瞬間だったりするのです。そこからもう一度、「生きる」ということを見つめ直してみたいという思いから、この作品をぜひ映像化したいと思いました。

──ドラマ化するにあたって、演出面で特に大切にした点や課題となった点を教えてください。

柴田D:まずは実際に働いている方が日々どんなことを感じながら患者さんと接しているのか、生の『現場』を知るのが第一。さまざまな療養病棟を訪ね、看護師さんや先生にお話を伺うところからスタートしました。中には、会話できる患者さんがほとんどいない病棟もあり、想像以上にハードな現場だと感じましたが、どこに行っても看護師の皆さんがとてもパワフルで、サバサバしていて芯の強い人が多かったのが印象的でした。脚本家の安達奈緒子さんと相談しながら、辺見のキャラクターにも落とし込んでいきました。病棟のセットも、実際の病棟とほぼ同じ空間を再現するために、壁の色1つにしても試行錯誤を繰り返しながら作っていきました。

長年使い込まれた風合いを出すために壁を幾重にも塗り重ね、細部までリアリティーにこだわった。

リアリティーを追求する一方、沖田さんの作品の魅力でもある寓話性…時代や場所を超えた普遍性を感じさせる物語としての魅力も大事にしたいと考えていました。沖田さんの作品は省略化された絵の中に、独特の“ユーモア”や“哀愁”が漂っていて、詩的な感銘を受けます。その世界観がすばらしいのですが、リアリティーと寓話性をどう両立させるのかが、とても重要な課題でした。

この4人部屋を中心に、患者やその家族の悲喜こもごもが繰り広げられていく。

そこで、演出において特にこだわったのは「光」の表現です。このドラマは、基本的に4人部屋の病棟で物語が繰り広げられていくのですが、部屋の明るさは、室内灯の明かりではなく、窓から差し込む太陽の光をベースに作っていきました。「透明なゆりかご」の時にも分娩室に窓を作って、外から光が差し込むようにしたんです。病棟も分娩室も隔絶された小さな空間のように見えるけど、窓から太陽の光が射し込むことで、外の世界とつながっている大きな空間での営みであるということを表現したかったんです。晴れている日もあれば雨の日もあるし、日が昇り、やがて夕方になり、夜になる。そんな普遍的な日々の営みを感じられる空気感を作り出すことで、沖田さんならではの世界観が映像の中に広がっていくのではないかと考えました。

第1話の冒頭で、辺見が日の出を見つめる象徴的なシーン。「どうしてもリアルな太陽の光が必要なシーンだったので、早朝3時からスタンバイして撮影しました」(柴田D)。

このドラマの裏テーマは「日は昇り、日は沈む」。療養病棟では、患者さんが亡くなってベッドが空くと、またそこに新たに入院してくる人がいて、日々、さまざまな別れと出会いが繰り返されます。でも、何が起ころうとも日はまた昇り「おはようございます。今日のご飯は○○ですよ」というような会話から新たな1日が始まる。その繰り返しが、生きるということだし、このドラマの登場人物の一人一人から、人間が生きるってなんだろう…とさまざまに感じていただけたらうれしいです。

──辺見役の岸井ゆきのさん、広野役の松山ケンイチさんをはじめ、多彩な俳優陣も本作の見どころですね。岸井さん、松山さんのお芝居の魅力を挙げるとしたらどんなところでしょうか?

柴田D:ふたりとも、お芝居がすごく自然体なんです。その場で感じたことを非常に的確なレベルで自然に表現できる。事前に脚本をしっかり読み込んで演技プランを考えてきても、決め込まずに、実際にセリフのやりとりをしたときに感じたビビッドな感情を大切にしてくださるんですよね。そこがすばらしいと思います。

シリアスな中にも、ユーモアと温かさを感じさせる岸井さんと松山さんの演技に注目。

人の死をテーマに描く作品なので、演じる側もつらい気持ちになることがあるかもしれないけど、少し引いて見てみると、シリアスなことの中にもどこか滑稽に見えることがあると思います。
「どんなドラマにもユーモアがあるし、このドラマにもきっとある。その感覚を大切に演じていただきたい」という話を最初の顔合わせのときにしました。岸井さん、松山さんをはじめ、キャストの皆さんがその思いを絶妙にんで演じてくださっているので、その演技にもぜひご期待ください。

──最後に、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

柴田D:「生きる」ということが究極のテーマであると思いますし、生きていることのかけがえのなさを大切に描きたいと思って、みんなでこのドラマを作りました。実際に療養病棟で働いている医療従事者の方、入院されている患者さん、闘病を支えていらっしゃるご家族……見る方によって、受け止め方はさまざまだと思いますが、多くの方にご覧いただき、何か発見してもらえたらと思います。また、今はまだ自分ごととして考えられなかったとしても、ぜひ若い世代の方にもご覧いただけたら幸いです。

土曜ドラマ「お別れホスピタル」

【放送予定】
2月3日(土)スタート〈全4回〉
毎週土曜[総合]午後10:00~10:49

【原作】沖田×華

【脚本】安達奈緒子

【音楽】清水靖晃

【出演】
岸井ゆきの、松山ケンイチ、内田 慈、仙道敦子、小野花梨、麻生祐未、丘みつ子
松金よね子、白川和子、古田新太、きたろう、木野 花、泉ピン子 ほか(第1話)