予期しない妊娠や出産で悩む妊産婦のために、道が設置した無料相談所「にんしんSOSほっかいどうサポートセンター」が、昨年12月で開設1年を迎えた。計1800件を超える相談が寄せられ、相談の直後に出産した女性もいた。同センターは「お金がなくても保険証がなくても大丈夫。孤立せず、いつでも連絡してほしい」と呼びかけている。
 センターは、妊産婦の相談を以前から独自に受けてきた社会福祉法人麦の子会(札幌市東区)が受託して運営している。相談は無料通信アプリLINE(ライン)や電話、メールで24時間受け付ける。道の委託は平日と土日祝日の一部時間帯の相談で、緊急時は相談員らが駆けつけることもある。それ以外は同法人が独自に対応する。委託費は1200万円。
 1カ月当たりの相談件数は最少で64件(昨年4月)、最多で244件(同6月)だった。「妊娠したかもしれない」といった内容が約8割で、緊急避妊薬を処方してもらうよう医療機関の受診を促したり、生理予定日の1週間後に妊娠検査薬を使うよう勧めたりしている。
 相談しやすいよう、差し迫った状況ではない限り氏名や住所は聞き出さない。ただ、住む場所がない妊婦らの相談の場合は居場所を聞き、職員が駆けつけて医療機関などとつなぐこともある。
 中にはセンターに連絡した女性がその翌日や数日後に出産した例もあった。相談員の佐々木友美さん(48)は「妊娠していても相手が分からなかったり、連絡が取れなかったりして誰にも相談できずに悩んでいる人が多い」と話す。
 家出や貧困で住む場所もままならない妊産婦のために、同法人は2022年3月から、妊産婦向けの滞在施設「リリア」を運営している。家賃と水光熱費は無料で、困窮している人には食事も提供する。個室2室や共用のキッチン、リビングダイニング、浴室があり、これまで16人が利用した。
 食事は自炊したり職員と一緒に作ったりし、助産師らが育児や退所後の生活に向けた相談にのる。平均して2カ月ほど過ごし、暮らしのめどがたったら退所する。希望する妊産婦には、養子縁組をする団体も紹介する。
 同センターの認知度の高まりから、相談件数は増加傾向にある。リリアの運営にも携わる佐々木さんは「どんな状況の人でも何とかしてきた。必ず助けてくれる人がいると知ってほしい」と話している。
 

 にんしんSOSほっかいどうサポートセンターは、札幌市東区北35東9の西尾記念ビル3階。電話(080・4621・7722)と、メール(ninshin-sos@muginoko.com)、LINE=こちら=で相談に応じている。(尾張めぐみ)
■「解決法 探してくれる」滞在施設リリア利用の女性
 「ここに相談することが、私にとって小さな希望だった」。にんしんSOSほっかいどうサポートセンターにメールし、その翌日に出産した女性はそう振り返る。
 事情があって実家を離れて生活していた。その日暮らしの中で、生理が来ないことに気づいた。「妊娠したかも」。誰にも相談できず、将来の見通しも立たない日々。現実から目を背けたかったが、おなかはどんどん大きくなった。
 思い悩んで歩道橋から飛び降りようとした時、胎動を感じた。「子どもは守らないと」と思わずにいられなかった。その後、インターネットで同センターを見つけた。「もう生まれると思う」とメールを送ると、すぐ職員が来てくれた。
 翌日に医療機関で出産。産後はリリアで3カ月ほど過ごした。1日3食を作って食べ、足を伸ばしてベッドで寝る。困ったことがあれば、スタッフや助産師に相談できる。普通の暮らしが「言葉にできない」くらい幸せだった。
 リリアを利用する前の生活は誰にも知られたくないが、「センターを知ることで助かる命が一つでも増えてほしい」と取材に応じた。「どんな状況の人も否定せず、解決の糸口を探してくれる場所。自分は無理と思わず、まずは相談してみて」(尾張めぐみ)

にんしんSOSほっかいどうサポートセンターの事務所

2024年2月9日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載