4月から勤務医の残業時間の上限を原則年960時間に規制する「医師の働き方改革」を前に、札幌市中央区の市立札幌病院は、救急医療を担う医師の上限を年1860時間とする特例の適用を道に申請した。命に関わる重症患者を診る「3次救急」を担い、長時間労働をすぐに是正できないと判断。2月にも道の指定を受け、地域医療を支える「最後のとりで」となる救命救急センターなどの医療体制を維持する。ただ、政府は2035年度までに特例を解消する方針で、同病院は勤務時間削減の取り組みも本格化させている。
■体制維持し削減急ぐ
 医師の働き方改革は、医師の長時間労働を解消するため、働き方関連法に基づき、時間外・休日労働を罰則付きで原則年960時間に規制。年960時間は月換算で脳・心臓疾患の労災認定基準「過労死ライン」と重なる。
 ただし、地域医療などの現状に配慮し、救急医療やへき地医療などを担う医師や技能習得に取り組む研修医らの上限を、過労死ラインの2倍近い年1860時間とする特例も設定。医療機関は事前に都道府県から指定を受ける必要があり、休息時間を確保する「勤務間インターバル」といった対策が義務付けられる。
 市立札幌病院によると、労働時間規制の対象から外れる「管理監督者」を除く医師123人の時間外・休日労働時間は22年度、8人(6・5%)が年960時間の上限超えに該当した。
 900時間以上960時間未満が8人、800時間以上900時間未満が10人(8・1%)。一般労働者の残業時間上限である720時間を超えたのは計36人で約3割を占めた。
 24時間体制で深刻な患者を受け入れる救命救急センターをはじめ、産婦人科、外科といった緊急対応があり、医師数が不足している診療科に長時間労働が集中するという。
 政府は35年度までに特例の適用対象の医療機関をなくすとの目標を掲げており、市立札幌病院は負担軽減策として、医師が担う業務の一部を他の医療専門職に移管する「タスクシフト」を進める方針だ。
 医師の判断を待たずに一定の医療行為が可能な「特定看護師」7人を配置。うち2人は24年度、医療行為の専従となり、医師をサポートする。札幌市病院事業管理者の西川秀司院長は「医師や看護師を簡単には増やせないが、体制を維持するために、特例を受けながら、労働時間の削減方法を模索したい」と話している。(蒲生美緒)

勤務医の残業時間の上限を超える特例を申請した市立札幌病院

2024年1月26日 21:55(1月26日 23:16更新)北海道新聞どうしん電子版より転載