道内の視覚障害者にとって、外出した際の歩行時に頼りにする路上の点字ブロックは、冬になると多くは雪に埋もれてしまい意味をなさない。移動に困難を強いられる当事者への支援は限定的で、災害時の避難への不安の声も聞かれる。

 「自分が本当にバス停の前にいるのか分からないので毎朝心配です」と話すのは全盲の事務員片岡裕里さん(33)。札幌市内の自宅から職場の北海道視覚障害者福祉連合会の入る、かでる2・7(同市中央区)までバスで通勤している。

 歩くときは通常、白杖(はくじょう)で路面の状態を確認しながら進む。冬になると、点字ブロックやバス停の周囲が雪で埋まり、自分の位置が把握しづらいという。

 バス停から職場まで徒歩10分の道のりは、ロードヒーティングで雪が解けていて点字ブロックを認識できる所も多い。ただ、ロードヒーティングがなく点字ブロックが覆われた圧雪との間に段差ができて歩きにくい。

 小樽市在住で全盲の池端彗(さとし)さん(80)=小樽視覚障害者福祉協会会長=は、「冬場は点字ブロックのある部分だけでもロードヒーティングを」と提案する。車道と歩道の境が分かるだけでも、安心感が増すという。

 実際、歩道の除雪はどのように行われているのか。

 札幌市の場合、市建設局雪対策室によると、車道は約5400キロを約3千人が除雪車約千台を使って実施。一方で、「歩道の除雪は時間的にも予算的にも余裕がなく、範囲が限られる。点字ブロックを露出させるまでの除雪は難しい」と説明する。

 24時間の積雪量が、7日に1999年の統計開始以来最多の69センチを記録した小樽市の担当者は「坂道が多く、ロードヒーティングは除雪予算の4分の1を占める」と語る。同市のロードヒーティングは、勾配が急な車道が優先され、歩道にまでは手が回らないのが現状のようだ。

 雪道で困っていそうな視覚障害者を見かけたら、どうすればいいだろう。北海道視覚障害者福祉連合会の担当者は「急に腕をつかまれると驚いてしまうので、『お手伝いすることはありますか』『信号が青になりました』と声をかけてほしい」と助言する。見守っていてくれるだけでうれしいという。

 視覚障害者などは、自治体の交通費助成も受けられるが、地域によって差があり、補助範囲や利用は限定的だ。

 札幌市は全盲の場合、地下鉄など市営の公共交通機関の全額補助か、タクシー料金年間3万9千円分のチケット配布などから選べる。片岡さんは「普段はバス利用。悪天候時などタクシーに乗ると、料金は全額負担になってしまう」とこぼす。

 岩見沢市は、全盲だとタクシーの乗車料金が1割引きに。また、初乗り運賃が無料になるチケットを年間24枚、配布している。

 行政の支援について、北海道視覚障害者福祉連合会の担当者は「ロードヒーティングや交通費の補助は限界だとは思う。介助者が外出時に付き添って支援する障害福祉サービス『同行援護』制度を充実させてほしい」と語る。各市町村が実施しており、予約が必要で時間の制限と地域ごとに事業所の偏りがあるため、冬場だけでもより柔軟な対応を求めている。

 また、札幌市で1歳8カ月の娘を育てる片岡さんは、雪道の移動について「日常でも大変なのに、大きな地震など非常時はどうなるのか」と不安を抱えており、視覚障害者に配慮した避難訓練などの実施を願っている。

片岡裕里さんの通勤路の点字ブロックは雪で埋まり、圧雪との段差は10センチ以上あった=1月18日

 

2024年1月26日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載