旭川医科大学病院は高度な医療を提供する「特定機能病院」で、道北、道東の地域医療を支える存在だ。全国の医療現場で医療従事者の不足や長時間労働などが問題となって不安が広がるなか、4月に勤務医の時間外労働に上限を設ける規制が導入される。旭医大病院も「医師の働き方改革」を求められるが、広大な地域の医療機関との連携や職場環境の改革、担い手確保など課題が山積している。課題にどう向き合っていくのか、就任から半年が過ぎた東信良病院長に聞いた。

 

 ――勤務医の時間外労働の上限を原則年960時間とする規制が4月に導入されます。特例はありますが、2035年度までに廃止となり、労働時間削減などの対応が必要になりますね。

 「影響は大きいですが、旭医大設立時からの使命は『地域医療を守ること』です。働き方改革の導入で、すぐに医師の出張や派遣ができなくなるわけではありません。ただ、35年度に向けて地方病院との連携をどうするか考える必要がありますが見通せていません。(旭医大病院で行っている医療を)旭川市内の病院が分担するのもこの問題の解決策の一つです」

 ――特定機能病院ですが、かかりつけ医として通院している患者が多いという印象です。

 「特定機能病院は『高度な医療を提供し、医療の発展に尽くすように』と医療法に定められています。いわば最後の砦(とりで)。大学病院は高度な医療以外の全てを行う必要はないのです。前病院長時代にアンケートをとったら、患者の4割が旭医大病院を、かかりつけ医だと思っていました。それは違いますよ、まずはクリニックなどに通ってくださいと院内に張り紙をしたり、ホームページに載せたりしてお願いしています。緊急性の低い診療で手いっぱいになると、緊急手術や研究活動などを果たせなくなり、結果として地域医療の衰退につながります」

 ――就任から半年が過ぎましたが、課題や新たな取り組みは。

 「まずは基本理念を変えました。『患者中心の医療を実践して、地域医療に貢献し、国際的に活躍できる医療人を育成する』です。この3本柱は、判断に迷った時、すぐに思い出せるよう簡潔にしました。現状は三重苦です。財政難と人材不足、働き方改革です。医師も看護師、薬剤師も足りません。昨年、職種をまたいだ就職説明会を初めて開きました。中学生向けに『ブラックジャックセミナー』というイベントも初開催しました。皮膚のようなものを縫う医療行為の模擬体験などで、若いころから医療に関心を持ってもらえればと思います」

 ――22年に学長が交代し、体制が変わりました。病院内の変化はありますか。

 「職員が気持ち良く働ける環境整備を推進しています。事務作業の人工知能(AI)導入などのハード面に加え、自分の役割や働く意義などを複数人でのコミュニケーションを通して考える『コーチング』の手法を取り入れています。職場の問題をなくし、生産性を上げる狙いがあります。患者さんにも職員が元気に働いている姿を見てほしいです」


あずま・のぶよし 札幌市出身。1985年、旭医大医学部医学科を卒業し、同大第一外科入局。胆振東部地震では現地で診療に当たった。2019年から旭医大病院副病院長、23年7月から現職。旭医大外科学講座循環・呼吸・腫瘍病態外科学分野教授

(聞き手・大井咲乃、写真・諸橋弘平)

 

<取材後記> 大学病院の医師は日々の診療に加え、地方病院への出張や研究と多忙で、働き方改革は必要だ。患者の4割が旭医大病院をかかりつけ医と思っている―という調査結果と、受診を待つ多くの患者の姿が一致した。地域医療を支える最後の砦を維持するために、考えるべきことは多い。

2024年1月22日 10:49北海道新聞どうしん電子版より転載