戦後の混乱などが理由で、十分な教育機会を得られなかった人たちの学び直しを支える釧路市の自主夜間中学「くるかい」が、5月で開校から15年を迎える。市民がボランティアで運営しており、今年は16日から始まった。不登校経験者や日本語学習が必要な外国人など、時代の変化に伴い学習者の多様化が進んでいる。スタッフらは「いつでも来てほしい」と話す。

「くるかい」では、マンツーマン形式で丁寧に学び直しが行われている

 

■学習者、スタッフ 掘り起こし課題
 「読むことはできても、書くのが難しいね」「忘れちゃった」。釧路市総合福祉センターで机を囲む白髪の女性たちが、国語のテキストを埋めていく。同音異字の漢字もあり、時には携帯電話の辞書機能を使って調べ合う。「日本語って、楽しいね」。釧路市の高野富子さん(82)の言葉に、笑顔が広がった。
 高野さんは友人に誘われて、くるかいに通う。6歳で樺太から引き揚げ、開拓農家の父を手伝いながら中学校に通った。休み時間を惜しんで読書に没頭した中学時代に戻ったように学び直しが楽しいという。
■市民有志が設立
 くるかいは2009年に市民有志が設立。毎週火曜の午後5時15分と午後7時からの2部制で、国語、算数・数学、英語を学んでおり、月謝は500円。「『あいうえお』から学べます」をモットーに、スタッフと主にマンツーマン形式で学び合う。

これまでは、十分に義務教育を受けられなかった人が、成人した後に学び直しで利用することが多かった。近年は不登校経験者や発達障害の人たちの学習も受け入れ、釧路で働く外国籍の人や家族らの日本語学習支援なども行っている。
 新型コロナウイルスの5類移行に伴い、例年通りの学習日数を確保できるようになり、昨年12月には学習者らの交流会も開いた。
 23年度は10~80代の23人が登録し、不登校生1人と外国籍の2人が通う。学校を休みがちという中学3年の女子生徒(15)は得意な太鼓の演奏を披露し、「勉強にも追いつけるし、いろいろな人とも関われて楽しい」と声を弾ませた。
 課題は学習者やスタッフの掘り起こしだ。設立当初は学習者とスタッフを合わせて100人以上が参加していたが、高齢化や転勤などで半数以下に減った。現在は元教員や大学生ら26人がボランティアでスタッフを務めるが、さまざまな経験をした人の学び直しに寄り添えるよう、より多くのスタッフが必要という。
■「年齢関係ない」
 約2年前から通う釧路市のパート従業員山口環暢さん(59)は、将来的にスタッフを志望している。働きながら家計を支えて定時制高校を卒業したが、中学時代の知識が十分ではなく、子どもに勉強を教えられない歯がゆさを感じたという。くるかいで中学数学を学び、「日々の生活でも数学の問題を解くように一つ一つ解決する大切さを感じるようになった。学び始めることに、年齢は関係ない。若い世代も学びに来てほしい」と話す。
 釧路では夜間の公共交通機関が限られ、車がなければ通うのは容易ではない。「冬は運転が怖い」と学習を休まざるを得ない人や、フリースクールがない地域からの利用を希望する不登校の生徒もいる。
 道内では、ほかに札幌の「札幌遠友塾」や旭川、函館でボランティアが自主夜間中学を運営している。2年前には道内唯一の公立夜間中学が札幌で開校した。さまざまな事情のある人が、気軽に学べる場の重要性は増している。
 くるかいの賀根村伸子代表(68)は「地方に住んでいても通いやすい公立の夜間中学が必要だが、もう一つの学びの場としての自主夜間中学としての役割も変わらない。学びたいと思う人をこれからも支え続けたい」と話す。(野呂有里)



 見学などの問い合わせはくるかい事務局の佐藤さんの電話、090・9751・4194へ。

2024年1月22日 21:27北海道新聞どうしん電子版より転載