経済的な理由で生理用品を購入できない「生理の貧困」の問題を受け、北海道内で学校のトイレに無料で使える生理用品を置く自治体が増えています。道教委は本年度から全ての道立高校などの女子トイレに生理用ナプキンの配置を始め、生徒からは「置いてあって助かった」と好評です。道教委の調査によると、ナプキンを利用した理由は経済的な事情だけではありませんでした。通学時に生理で「困った」という経験を探りました。(報道センター 若林彩)

札幌東豊高校が女子トイレに設置したナプキン。専用ケースに入っており、1枚ずつ取り出せる

 

公益財団法人「プラン・インターナショナル・ジャパン」(東京)が2021年に15~24歳の女性2千人に実施した調査では、35・9%が「何らかの理由で生理用品の購入・入手をためらった」と答えています。ためらったことがある人のうち8割が経済的な事情を挙げました。多い順に「収入が少ない」が11・2%、「生理用品が高額」が9・0%、「お小遣いが少ない」が8・7%と続きました。このほか「自分で買うのが恥ずかしい」が6・3%、「親に購入を頼むのが恥ずかしい」が2・6%でした。

経済的な事情で生理用品が利用しづらいという「生理の貧困」の問題は、新型コロナウイルス禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなどから顕在化しました。道教委は、本年度からの全ての道立高校などへの配置に先駆けて昨年1月から1カ月間、道立高10校と特別支援学校1校のトイレに生理用ナプキンを配置するモデル事業を行いました。
 モデル校を対象に生徒454人に複数回答で答えてもらったアンケートの結果からは、生理を巡る意外な事情も明らかになりました。
■生理周期が不安定 最多は「急に必要になった」
 道教委のアンケートによると、実際にトイレに備えてあった生理用品を利用した生徒は37・7%いました。利用した理由は「経済的理由で用意できなかった」が2・9%いましたが、最も多いのは「急に必要になった」が71・9%でした。他の生徒に生理用品を持ち歩いているところを見られることを恥ずかしく感じるなど、「教室などから持ち出しにくい」も19・3%いました。

高校生は成人前のため、生理周期が不規則な生徒は多いのです。経血が多いと手持ちの生理用品が足りなくなることもあります。
 道教委のアンケートでは「学校で生理用品がなくて困った経験があるか」という質問に、77・3%が「ある」と回答しました。どのように対応したかを聞くと、「友人に生理用品を譲ってもらった」が80・3%で最も多く、「トイレットペーパーやティッシュペーパーで代用した」が48・7%、「生理用品を交換せずに我慢した」が27・9%と続きました。「学校や部活動を遅刻、早退、欠席した」も6・3%いて、学校生活に生理の影響が出ている現状が浮き彫りになりました。

道教委の担当者は、アンケートを通して「生理の貧困だけでなく、安全安心な環境整備が必要」と認識したと話します。生理用品を無料で利用できるからと、必要以上に大量に持ち出されたケースもなかったそうです。そこで、昨年4月から全ての道立高と、特別支援学校では配置可能な66校中62校のトイレに生理用品を置くようになりました。経費は各校がトイレットペーパーやコピー用紙の購入に充てる学校運営費を活用し、購入しています。
 札幌市東区の札幌東豊高校では、ナプキンを入れたケースを廊下から見えないように、トイレ奥の壁に設置しています。生徒からは「突然の生理や、生理用品が足りないときに使えて助かる」と好評で、原田佳子養護教諭は「売店では他の生徒の目を気にして買いにくいようです。道教委には設置を継続してほしいです」といいます。困窮家庭の生徒がトイレの生理用品を自宅に持ち帰っているという話を別の生徒から聞き、見えにくい貧困の問題の把握にもつながりました。

道内の高校の女子トイレに配置された生理用ナプキン。置き方は各学校に任せている(道教委提供)

 

■小中学校への配置も進む
 道内では市町村立校のトイレでの配置も広がっています。内閣府男女共同参画局の調査では、22年7月時点で室蘭や岩見沢など12市町が小中高のいずれかのトイレに生理用品を配置、または配置予定としており、21年の2町から増加しました。このうち、室蘭市では22年度から小中全16校のトイレにナプキンを置いています。市の予算は年間約11万円。これまでに盗難やいたずらのトラブルは聞いていないといいます。道教委健康・体育課は「道教委の配置を受け、市町村立校でもさらに設置が進むのではないか」とみています。
 課題もあります。道教委がモデル校へ実施したアンケートでは、「配置事業を機に、男子生徒の生理の貧困への理解が深まった」「経血で制服やジャージーを汚して保健室に来る生徒がいなくなった」という声が上がりましたが、「卒業後を見据え、生理用品は自分で用意するという意識が薄れていかないような指導が必要」との意見も複数ありました。道教委健康・体育課は「性に関する指導の充実を図るため、教員研修などで理解促進に努めたい」としています。
■取り換える時間がない!夜用ナプキンが人気
 道教委は購入するナプキンの種類を各校に任せています。ナプキンは、長時間の利用を想定して経血を多く吸収できる構造にした「夜用」などの大きいタイプから、薄型の商品までさまざまありました。各校の担当者はどの種類を購入するべきか悩んでいました。
 

大きなサイズから、衣服に目立たない薄型の商品まで多様な種類のナプキンが販売されている

 

札幌東豊高校では通常サイズと夜用の大きなナプキンを2種類用意していましたが、夜用が「ダントツ」で人気だったといいます。同校が生徒に理由を尋ねたところ、授業の合間の10分間の休憩ではナプキンを交換する時間が足りず、夜用を使って35分間の昼休みに取り換えていたことが分かりました。さらに、夜用は立ち上がったときなどに、どばっと出る経血にも対応でき、「安心感がある」という意見もありました。
 このほかショーツに固定しやすいように、ナプキンの左右に粘着力のある「羽」がついた商品もあります。羽つきを好む生徒もいれば、「肌がかぶれるため、羽はない方がいい」という意見もありました。同校の教諭は「売り場のナプキンの種類が多く、購入時に困った。今後も利用状況を見て種類を考えたいです」と話していました。
 道教委が11校に実施したモデル事業では「生徒から羽つきナプキンの希望があったため購入したら、羽なしが減らなくなった」「薄型より通常の厚さのナプキンの使用数が多かった」という声が寄せられました。生徒からは「経血量が多いため、多い日用のナプキンがあり助かった」「量が少ない日用もあると便利」との声もあり、反応はさまざまです。道教委健康・体育課は同課のホームページで昨年6月にモデル校の報告書を公表しており、「購入の参考にしてほしい」と呼び掛けています。
<取材後記>
 学校トイレへの生理用品の配置は、記者(30)がずっと願っていたことでした。記者は小学5年生のときに初潮を迎えましたが、当時は生理が始まっていない同級生が多く、男子の目も気になり、ナプキンが入ったポーチを持ってトイレに行くのが本当に苦痛でした。記者が通っていた小学校の休み時間は5分しかなく、ナプキンを取り換える時間も十分にありません。そこで、夜用のナプキンを着けて、なるべく交換しないようにしたり、生理用ショーツのポケットにナプキンをぱんぱんに詰め込み、ポーチを持ち歩かないよう工夫していました。
 あれから20年。まずは全ての道立高校でナプキンの配置が始まりました。しかし、生理周期が不安定で、生理用品の取り扱いに慣れていない小中学校でこそ、配置が広がってほしいと思います。取材を通して、小中高では授業の合間の休み時間が短いことや、女性にとって日常である生理に恥ずかしさを感じている高校生が多くいることも課題だと感じました。
 生理用品を誰もが無料で利用できる取り組みに反対する意見もあり、議論が必要ですが、この記事を通して経済的な理由以外にも、生理で困っている女子が多くいることを知ってほしいです。

 

2024年1月14日 14:00北海道新聞どうしん電子版より転載