「ダウン症ベビーとの歩みかた」の健康管理を説明したページの一部
「赤ちゃんにダウン症候群の可能性があると言われたけれど、それって何?」「どうやって育てれば?」―。そんな疑問に答えるガイドブック「ダウン症ベビーとの歩みかた」が完成した。札幌市のダウン症児の親たちのグループ「こや議会」(平田ゆかり代表、12人)が、市などの協力を得て作成した。特徴的な症状や月齢・年齢ごとの注意点、支援窓口を紹介。体験談も掲載し、戸惑う家族に寄り添う内容となっている。
ダウン症児が生まれた時に十分な情報を一括して得られる機会が無かったというメンバーの体験を踏まえ、子育ての全体像がわかるガイドブックをと作成し、先月完成した。B5判40ページで、医療、発達、支援など8章で構成。専門外来がある天使病院(同市東区)の監修も得た。
第1章は「ダウン症候群とは…」。健常児との染色体数の違いや、筋力が弱いなどの特徴を列記。見た目にも特徴があるが基本的にそれは健康上の問題がないことや、知的発達のスピードは緩やかだが療育により上昇することなどを示した。はいはいやつかまり立ちをする月齢は一般的な赤ちゃんの2倍ほどが目安だが、発達には個人差があり、長い目で見守ることの大切さにも触れた。
幼少時に特に重要となる、合併症の有無のチェックや感染症のリスクについても紹介。心臓や消化器の異常がダウン症児に多くみられるが子どものうちに手術が行われることや、免疫の働きが弱いダウン症児は人混みを避けたりワクチン接種が有効となることを記述した。歩行や発語、そしゃく・嚥下(えんげ)の発達を促す療育についても解説し、施設や手続き方法を載せた。
福祉サービスを受けるための証明書となる療育手帳と身体障害者手帳の違いや、それらの申請方法、手帳を取得することで受けられる交通費助成や税の減免などの内容もまとめている。「ダウン症児が加入できる保険(保障)」一覧は、当事者ならではの着眼点だ。
「こや議会」は札幌市独自の早期療育事業「こやぎの広場」で出会った親たちが中心となって昨年2月に立ち上げた。「広場」は、ダウン症などの0~2歳の親子を対象に週1回、発達を促す遊びや育児相談を行っている。
道子ども家庭支援課によると、障害のある子が生まれた場合、一般的には市町村の保健師が情報提供を担う。「こや議会」副代表で小学校教諭の斉藤真美さん(32)=札幌市北区=は、長男の遼(はるか)ちゃん(2)を2021年に出産。保健師は優しく寄り添ってくれたが、情報提供は「広場」の紹介にとどまったという。「何を聞けばいいのかもわからず、すごく不安だった。生まれてすぐ使える制度がなくても、将来への見通しが持てる情報がほしかった」という思いが、自前でのガイドブック編集という行動につながった。
同会は「家族が情報収集にかける負担を軽くして、気持ちを整理したり、子どもと過ごしたりする時間に充ててほしい」と願う。
ガイドブックには保護者のコラム11本も掲載。妊娠中にわが子にダウン症の可能性があることを知り不安になったが、産院での手厚い対応を得て自分でもダウン症について学んだことでわが子の成長が楽しみになった母親の話など、貴重な経験が率直につづられている。優しい筆遣いの挿絵は、子どもに難病のある石狩市の絵本作家しょうじあいかさんが描いた。
当初は市にガイドブック作成を要望。昨年3月に試作を始めたが、保険一覧など幅広い情報が必要だと考え、9カ月かけて自分たちで完成させた。制作費約30万円は趣旨に賛同した個人や企業の協賛で賄った。800部印刷し、半分は市が保管して保健師の新生児訪問などで必要な家庭に渡し、もう半分は市内の病院などに置く。無料。こや議会のホームページ(https://koyagikai-1.jimdosite.com/)からもダウンロードできる。(山田芳祥子)
<ことば>ダウン症候群 計23対ある染色体のうち21番目の染色体が通常の2本より1本多いために発症する。運動機能や知的発達が緩やかであることが多い。小児慢性特定疾病情報センターによると600~800人に1人の割合で生まれる。
2024年1月14日 05:00北海道新聞どうしん電子版より転載