能登半島地震の被災者が、厳しい環境の避難所から宿泊施設などに移る2次避難が本格化している。石川県加賀市の山代温泉にある旅館「みやびの宿加賀百万石」には、12日時点で約300人が身を寄せる。旅館ならではのもてなしで、緊張から解放された被災者が表情を緩め、元日以来の風呂に「格別」と喜ぶ声も。社長の吉田久彦さん(40)は「まず被害が一番ひどいところの人たちに元気になってもらいたい」と話す。

 石川県加賀市の旅館「みやびの宿加賀百万石」に2次避難した人たちに、滞在の説明をする吉田久彦社長(奥)=11日

 

元日の大地震、吉田さんは館内で仕事中だった。旅館に大きな被害はなかったが、輪島市や珠洲市など家屋の倒壊が相次いだ地域の知り合いに思いをはせると胸が締め付けられた。

 地震の影響で、1月は約半数の予約がキャンセルに。加賀市から2次避難受け入れの要請を受け、「被災した方々に少しでも暖かいところに避難してほしい」と迷うことなく決意した。

 3棟のうち1棟を避難者用とし、9日から受け入れ始めた。館内の温泉も開放。食事は市内の業者に仕出し弁当を頼み、毎日3食分を提供する。吉田さんが家族の人数など避難者ごとの状況から部屋を割り振り。受け付けで相談に耳を傾け、丁寧に対応する。

 車やバスで続々と被災者が到着し、10日に輪島市から家族と避難した30代男性は「9日ぶりに風呂に入った。格別だ」と笑顔をのぞかせた。穴水町から別の避難所を経て、11日午後に車で家族と身を寄せた中村千晶さん(43)は「道がガタガタで怖かったが、無事たどり着けて良かった」と安堵の表情を見せた。

 2次避難は始まったばかり。予定より人数が多かったり、要介護者への配慮が求められたりと苦労は絶えない。「イレギュラーが多い」と苦笑するが、「久々にぐっすり眠れた」「温泉に3回入った」など明るい声に、吉田さんは「来た時と顔つきが違う。少し表情が柔らかくなっている」と目を細める。

 受け入れ人数の増加や滞在の長期化が予想され、さらに1棟を避難者用とし、残る1棟を一般客用に充てる。通常営業への影響は避けられない。「こんな時だが、復興を後押しするためぜひ旅行に来てほしい」と話す。

 苦労や不安があっても、吉田さんは旅館を市や地元NPOに被災者が相談する窓口としても機能させたいと復興に前向きだ。「自立した生活に少しでも戻れるように手伝いたい」。被災者に寄り添う覚悟だ。

2024年1月13日 05:47北海道新聞どうしん電子版より転載