子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐHPVワクチンの接種が、道内で進んでいない。定期接種の対象となる小6~高1相当の女子は公費で受けられ、接種機会を逃した人が多い1997年度~2006年度生まれ向けの「キャッチアップ接種」も25年3月末まで公費助成が受けられる。医師らは「若いうちに打つ方が効果が高い」として対象者に接種を促している。

 「世界は子宮頸がんの撲滅に向かっているのに、日本は増加傾向だ。副反応の印象も尾を引いているが、周知方法にも課題がある」。札幌市産婦人科医会会長で、にしかわウイメンズヘルスクリニック(札幌市中央区)院長の西川鑑(あきら)さん(61)は厳しい表情を浮かべる。

 子宮頸がんは若い世代の発症が多い。道によると19年にがんを発症した15~39歳の女性のうち、子宮頸がんは3番目に多かった。初期はほぼ無症状で、子宮摘出を避けられる初期の病変でも、手術が必要となった場合は子宮の一部を切り取ることがある。これにより妊娠時に早産のリスクが高まったり、妊娠できなくなったりすることがある。国内では年間、約2900人が亡くなっている。

 日本では13年4月、小6~高1相当の女子に公費で定期接種が始まった。だが接種後に多様な症状が報告されたことを受け、同年6月から個別に接種を通知するなどの積極的勧奨は控えられた。

 その後、安全性に特段の懸念が認められないこと、接種の有効性が副反応のリスクを上回ることを専門家が確認。昨年度からは定期接種の積極的勧奨が再開された。勧奨が控えられた期間に定期接種の対象だった世代向けに、キャッチアップ接種の助成も始まった。

 だが、接種は広がっていない。道によると、昨年度の実施率(13歳の女子人口に占める1回目接種率)は27・3%と全国平均の42・2%を大きく下回った。

 道内のキャッチアップ接種の対象は約23万人だが、昨年度の実施件数は2万1千件で「まだまだ打っていない人が多い」(道感染症対策連絡本部)。定期接種も含めて低迷している理由について、同部は「当初の定期接種の際の報道などの影響で、副反応を懸念しているのでは」と推測する。

 厚生労働省は副反応について、主流の9価ワクチンの場合で痛みが50%以上、腫れや赤み、頭痛が10~50%未満、失神や四肢痛などは「頻度不明」などと説明するが、広く認知されていない。

 HPVは主に性交渉によって感染する。日本性教育協会(東京)によると、女子の性交経験率は大学生が36・7%、高校生が19・3%、中学生が4・5%。ほとんどの場合、ウイルスは自然に排除されるが、感染が続くと子宮頸がんになる前の病変(前がん病変)を経て、がんになる。

 HPVはほとんどの女性が感染するウイルスだが、ワクチン接種によって高い感染予防効果が得られる。厚労省によると、カナダや英国など海外では女性のHPVワクチンの接種率が80%を超える国もある。世界保健機関(WHO)は接種を推奨しており、120カ国以上で公的な予防接種が行われている。

 イベントなどでワクチン接種の重要性を周知している西川さんは、接種率の向上に向けて「自治体が対象者に再度個別に通知するなどの周知が必要」と強調。さらに「ワクチンは性交渉を経験する前の若い時期に打つのが効果的。2年に1回の子宮頸がん検診も受けることで、予防と早期発見につながる」と呼びかけている。(尾張めぐみ)

2024年1月13日 05:00北海道新聞どうしん電子版より転載