LGBTQなど性的少数者のカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を導入する動きが、道内の自治体に広がっている。北海道新聞の調べでは11日現在、札幌や帯広など10市が既に制度を導入し、2024年度末までに導入予定の旭川や釧路など19市町と合わせると、道内人口の約7割が制度を利用可能になる。ただ広域自治体である道の制度導入に向けた動きは鈍く、国も同性婚を認めない中、同性カップルが得られる権利はなお限定的なのが現実だ。

 「パートナーと交際を始めて20年。『おめでとう』と言われたのは初めてだった」。22年12月、帯広市役所でパートナーシップ登録をしたゲイの国見亮佑さん(48)=仮名=は当時をそう振り返る。窓口で登録証を受け取ると、集まった友人ら10人がクラッカーを鳴らして祝福してくれた。

 以前は病院の受診時に記載する緊急連絡先にもパートナーの名前を書けなかった。「登録証があれば、『誰?』と関係性を聞かれても伝えられる。制度があることで勇気付けられ、地域に受け入れられていると感じる」。国見さんは登録の利点を実感している。

 パートナーシップ制度は、自治体が独自に性的少数者同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め、証明書を発行する制度。適用される住民サービスは市町村によってさまざまで、市営住宅入居や公営墓地の利用が可能になることが多い。

 道内では17年の札幌市を皮切りに、昨年末までに函館や北見など8市が導入。今月1日には小樽市と滝川市も新たに制度を始めた。16日には旭川市と上川管内中部7町が導入し、釧路や室蘭、網走各市、上川管内上川町なども24年度末までに順次制度を開始する。

 当事者団体からの要望や議会での議論を受け、主要都市では導入の動きが活発化しているが、小規模な町村はそうした動きが乏しい。さらに人権擁護のための新たな制度づくりは多大な労力が必要なため、職員数が限られる小規模自治体にとってハードルは高い。

 道内で人口が最少の上川管内音威子府村の担当者は「人口規模の大きい市と違い専門部署もなく、当事者ニーズを把握するのも難しい。条例を一から作るには数カ月はかかる」と話す。

 広域自治体の道が制度を導入すれば、制度のない市町村で暮らす性的少数者でも証明書の発行を受けられるようになるが、道は「住民に身近な市町村で導入されるのが望ましい」(道民生活課)として導入の検討すらしていない。

 こうした道の対応によって、同性カップルが道の支援制度を活用できなかった事例も起きている。函館市でパートナーシップ登録をしたカップルは23年8月、道が徴収する自動車税の減免制度の対象外となった。

 カップルの1人は精神障害があり、そのパートナーが障害者の家族の自動車税が減免される制度を利用しようと、札幌道税事務所に相談したが「婚姻している配偶者か親族でなければ利用できない」と断られた。

パートナーシップ制度拡大 24年中に道内人口の7割利用可 権利限定的 | 拓北・あいの里地区社会福祉協議会(仮)

 カップルの1人は「支援の受け皿から排除されているように感じる。道としても早急に多様なカップルを公的に認めてほしい」と切望する。

 そもそもパートナーシップ制度は法的効力がなく、婚姻に比べると得られる権利は限定的だ。「配偶者」という身分保障やそれに伴う所得税の配偶者控除、財産相続、遺族年金の受給などの利益は婚姻が認められないと得られない。

 鈴木賢・北大名誉教授(比較法)はこうした現状を踏まえ、「同性カップルは数千万円単位で財産権を損失していると言っても過言ではない」と指摘する。

 性的指向を理由にした権利の不平等が残る中、性的少数者を支援するNPO法人「北海道レインボー・リソースセンターL―Port」の中谷衣里代表理事(32)は訴える。「同性カップルも当たり前に結婚できる世の中になってほしい」(長谷川史子)

 

2024年1月11日 15:29(1月11日 15:30更新)北海道新聞どうしん電子版より転載