人口減が進む道内で自治体の人手不足が深刻化している。留萌市では給食センター調理員の定員割れが続き、事務職員が調理を代行する事態に陥った。技術職員も各地で不足し、昨年、3市町が建築確認の業務を廃止した。国や道は市町村同士の広域連携で対処を図るが目立った効果は見えない。都道府県別の人口規模の順位後退が不可避となり、2050年には382万人に減ると見込まれる北海道で、自治体機能をどう維持させるかが切実な課題となってきた。

調理員不足のため給食容器の洗浄業務に入る留萌市学校給食センターの沖田業務係長=昨年12月

 

「今年はなんとか乗り切ったが、来年はどうなることか」。留萌市学校給食センターの沖田雅己業務係長(51)は昨年12月22日、年内最後の配食業務が終わった調理場でつぶやいた。同センターの調理員は現在、定員より11人少ない13人。この日も本来は事務職の沖田係長がデスクワークをこなしてから食器を洗った。

 調理員の確保が滞るようになったのは3年前から。小中7校へ毎日1200食の提供を続けるため、沖田係長は週に2、3回、揚げ物の調理にも入る。昨年12月に時給を初めて千円超えの1023円に上げて調理員を募集しているが応募は1人だけ。「いつか給食を出せない日が来るかも」。そんな不安が頭をよぎる。

 留萌市の人口は昨年11月末時点で1万8749人。20年前に比べて約9千人減り、減少数の9割が15~64歳の生産年齢人口だ。留萌市を含む稚内公共職業安定所管内の有効求人倍率は同月、全道最高の2・10倍に達した。細る働き手の層を、行政と民間が奪い合う構図となっている。

 

自治体の人手不足は、2000年代に進んだ行財政改革の職員削減が背景にある。そこに人口減が拍車を掛け、各地で深刻な課題となってきた。
 滝川市、後志管内余市町、釧路管内釧路町は昨年3月、住宅の建築確認業務を廃止した。1級建築士でなければ取得できない「建築主事」の資格を持つ職員が退職し、処理できなくなったためだ。廃止により、住民が建築確認を申請する場合は各市町を通して道の振興局とやりとりしなければならなくなり、市町も危険な建物の建築指導など一部権限がなくなった。滝川市建築住宅課は「今後多くの公共施設が改修時期を迎える。技術職の人手がほしいが、応募がない」と話す。
 公立の医療現場も人繰りがつかなくなってきた。胆振管内むかわ町穂別地区の国保診療所は昨年末、看護師不足で入院患者の受け入れを休止。市立根室病院は昨年4月に病床の2割の使用を中止した。
 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、50年の人口は全道で382万人となり、67市町村で半減するとされる。国は人口減少下でも地域の生活・行政機能を維持するために広域連携を促してきた。
 行政基盤強化を掲げた「平成の大合併」が終わりに差し掛かった09年、総務省は5万人以上の中心市と近隣市町村の「定住自立圏構想」を、14年には政令・中核市を拠点とする「連携中枢都市圏」を打ち出し、自治体間の連携を支援した。ただ広大な道内では拠点の都市から遠く、参画できない市町村も多い。このため道は小規模自治体同士の連携に1千万円を交付する独自の事業を実施。後志管内倶知安町を除く178市町村が国か道いずれかの連携枠組みに入っている。
 ただ、連携事業の多くは職員研修や防災訓練の合同実施にとどまり、職員不足の解決には結びついていない。道行政連携課は「まずは市町村が幅広く連携することが目標」と説明する。

■奈良県、市町村の業務代行
 合併が進まず山間部の町村を中心に過疎化が深刻となっている奈良県は、10年から市町村の消防やごみ処理の広域化を支援するとともに、市町村の行政サービスを県が代行する「垂直補完」型の連携に取り組む。
 インフラ老朽化が全国的な問題となる中、橋やトンネルの点検、修繕工事など土木技師が担う業務を主な対象とする。市町村が費用負担し、県職員が入札や費用積算などの事務を行う。
 22年度は県内39市町村のうち10町村で土木技師の職員がいなかったが、垂直補完の手法で同年度までに3千基以上の橋の点検や工事を完了。県内の橋の老朽化対策は、全国平均より10ポイント程度高い74%で着手済みにした。
 知事と県内全市町村長が参加する「県・市町村サミット」を年に複数回開き、新たな連携や支援も検討している。県の担当者は「人口減少社会で、地域の要である市町村の運営を支え、地方の活力を維持することは広域自治体である県の重要な使命だ」と話す。
 県が市町村同士の連携を推進しつつ、市町村業務を自ら補完する一連の取り組みは「奈良モデル」と呼ばれ、全国で注目を集めている。秋田県や愛媛県なども市町村税の徴収や道路の維持管理などで取り入れている。(金子文太郎)

■実情に合う広域連携を

北大公共政策大学院・山崎教授に聞く
 人口減少や人手不足が進む道内で、自治体の機能を安定的に維持するにはどのような取り組みが必要なのか。北大公共政策大学院の山崎幹根教授(地方自治論)に聞いた。
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北大公共政策大学院の山崎幹根教授

 

これまで現場の努力でなんとか維持していた地方の行政機能が、今後危機的な状況を迎える恐れがある。国の枠組みを利用して他の市町村と連携協定を結ぶ道内自治体はあるが、組織間の調整に労力を要することなどから、効果的な広域事業を実施できている市町村は限られる。
 ただ、道内では既に土木や建築、保健分野の職員が不足している自治体があり、連携のコストより恩恵が上回る状況にきている。広い道内では市町村同士の連携だけでは問題を解決できないところが出てくることが予想され、奈良県のように「垂直補完」型に取り組むことも重要だ。
 大事なのは、国から言われるがまま形式的に進めるのではなく、地域が自らの実情に合った形を模索することだ。立ち行かなくなる自治体が現れる前に、道や市町村は広域連携の可能性や地域のあり方について本腰を入れて議論することが求められている。(聞き手・金子文太郎)

2024年1月8日 22:59(1月9日 08:27更新)北海道新聞どうしん電子版より転載