性的指向や性自認を本人の同意なく暴露する「アウティング」被害の相談が、2022年度までの10年間で1354件に上ることが26日、無料相談を受け付けている一般社団法人「社会的包摂サポートセンター」のまとめで分かった。同センターが全件を対象に集計したのは初めて。アウティングはパワハラの一類型として職場での防止が義務付けられているが、毎年相当の被害があることが明らかになり、未然防止の対策が求められる。

アウティング被害相談件数の推移


 同センターが運営する無料相談電話「よりそいホットライン」のうち、性的少数者向けの専用回線に寄せられた相談記録を調べた。その結果、毎年度100件前後~百数十件で推移し、最多は19年度の248件。一橋大法科大学院の学生が15年に性的指向を暴露された後に転落死した事案を巡る訴訟の一審判決が19年2月に報じられた影響で増えたとみられる。
 内容では「職場の上司や同僚に心を許して話をしたら広まってしまった」「行政に相談したら『情報共有』されてしまった」など、本人の意図しない形で拡散されたという被害が目立つ。
 専用回線の担当者で「SOGIE相談・社会福祉全国協議会」理事の安間優希さんは性的指向や性自認に関し「非常にセンシティブで、一度表に出てしまえば『人生終わり』と感じたり、居場所を失ったりする人もいて深刻な問題だ」と話す。
 センターはアウティング相談件数に関し、これまで一部を抽出して調べたことはあったが、全件を対象にしたのは初めて。ただ相談者には社会的に孤立し、経済的な不安を抱えた人が多く、アウティングがこうした悩みの一因だったとしても主な内容として集計されないケースもあり、件数はさらに多いとみられる。
 相談電話は東日本大震災を契機に開設され、他に「自殺防止」「DV・性暴力」などの専用回線がある。各地の支援団体とネットワークを結び、連携して対応している。よりそいホットラインはフリーダイヤル(0120)279338。

 アウティング 好きになる相手の性別「性的指向」や、自分の認識する性別「性自認」を本人の了解なく第三者に暴露する行為。一橋大法科大学院の学生が転落死した事案を受け、地元の東京都国立市は2018年にアウティングを禁止する全国初の条例を施行した。両親が大学に賠償を求めた訴訟で20年の東京高裁判決は「人格権やプライバシー権を著しく侵害する許されない行為」と認定。20年施行の女性活躍・ハラスメント規制法の指針で、パワハラの一類型に規定されている。2023年12月26日 11:10北海道新聞どうしん電子版より転載