国立社会保障・人口問題研究所が22日に発表した2050年の将来推計人口では、道内の少子化が全国を上回るペースで進む実態があらわになった。地域の将来を支える0~14歳人口が20年の半数未満となる道内自治体は7割超の129に上り、この年齢層が増加する自治体はない。専門家らは、若年女性が都市部に流出しない地域づくりを進めて出生率を維持し、少子高齢化に歯止めをかけなければ、多くの自治体は機能の維持さえままならなくなると指摘する。

■ニセコや東川 減少緩やか
 50年の道内人口は、20年の国勢調査時から約140万人減り、382万人と推計。年齢別に見ると、0~14歳は20年の56万人から41・6%の大幅な減少で33万人となり、生産年齢人口の15~64歳も299万人から37・5%減の187万人になる。
 特に深刻なのは14歳以下の減少だ。道内の減少率は全国平均の30・8%を10・8ポイント上回り、急速に少子化が進む。道内人口に占めるこの年代の割合は25年に1割を切り、その後も1割以下で推移する。

■都市部に流出
 0~14歳人口が半数未満となる自治体のうち80%以上減るのは6市町。減少率が最も高いのは空知管内上砂川町で、全国でも3番目に高い85・7%減となり、50年にはわずか26人になる。そのほか歌志内市(85・2%減)、渡島管内木古内町(84・1%減)、同管内松前町(83・3%減)、釧路管内白糠町(81%減)、夕張市(80%減)と続く。
 ニッセイ基礎研究所の天野馨南子・人口動態シニアリサーチャーは「道内は女性が(仕事を求めて)都市部に流出し、特に地方で20代の男女比が崩れている。地元で結婚するカップルが減ったために人口減少が加速している」と指摘。職業選択の少なさ、性別による役割意識が色濃いことが主な原因といい「地方では子育て支援だけでなく、男女の賃金や評価、役割といった格差是正によって女性定着に注力することが急務だ。女性の流出を止めない限り、人口減少は止まらない」と訴える。
■雇用創出課題
 少子化は生産年齢人口の減少にもつながる。その対策となる雇用について、道内の産業に詳しい日本総合研究所の藤波匠上席主任研究員は、今の若者が働くのはIT業界が中心で、道内でも大卒者が首都圏に流出する原因となっていると分析。「移住促進活動の効果は限定的。半導体工場が千歳市に進出するなど若者を雇用する場があることが重要で、工場や研究施設の誘致にもっと取り組むべきだ」と訴える。

また、国際的なリゾート地の後志管内ニセコ町は0~14歳の減少が道内で最も緩く、人口減少率が4・4%にとどまり、大雪山系のふもとにある上川管内東川町も同14・7%と低いことを強調。観光産業での雇用創出を念頭に「釧路湿原や世界自然遺産知床など訪日客を呼び込める観光産業の潜在力はまだある。1次産業も温暖化による変化に対応できれば、悲観しすぎることはない」とエールを送った。(根岸寛子、内山岳志)
■19市町村は千人未満「マチ維持できず」 道民半数以上、札幌圏住まいに
 国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計人口で、歌志内市など19市町村が2050年時点で千人を下回る見通しが示された。暮らしが成り立たず、自治体からは「マチを維持できない」と悲痛な声が漏れる。一方、50年時点で道民の2人に1人以上が札幌圏の住民となり、さらに一極集中が進む見通しだ。
 道内で人口千人を下回るのは20年時点で上川管内音威子府村(706人)と後志管内神恵内村(870人)のみ。50年には上川管内幌加内町や檜山管内奥尻町など19市町村になる。
 「とても厳しい結果だ」。全国で最も人口が少ない市の歌志内市の担当者は、推計結果に驚いた。推計では50年時点の人口は838人で、20年の2989人から72%減となる。人口減少率と高齢化率ともに全道で最も高かった。

同市は年間平均降雪量が約10メートルの豪雪地帯。50年時点で7割が高齢者となる見込みで、市の担当者は「除雪の担い手をどうするか。地域での支え合いが難しくなる」と頭を抱える。給食費無償化や修学旅行費の全額補助などに力を入れ、今年の出生者数は4年ぶりに2桁の13人となった。市は「地道な子育て支援を進めていくしかない」と話す。
 渡島管内松前町の50年時点の推計人口は1939人。20年比で69%減と旧産炭地を除けば最大の減少率となった。漁業の後継者不足は既に顕在化しており、20年国勢調査の産業別就業者数で、1次産業従事者は2000年比で65%減。同町は「主産業の漁業と観光を維持できなくなる」と危機感をあらわにする。
 札幌圏への一極集中はさらに加速する。50年時点で道内に占める札幌圏の人口割合は54・5%で、20年比で8・7ポイント上昇する。人口は札幌圏が1割減なのに対し、これ以外の地域は4割減。道は、幅広い世代が医療や教育、雇用を求め札幌圏に流出しているとみる。
 札幌圏では、次世代半導体製造を目指すラピダス(東京)が千歳に進出。半導体は関連産業の裾野が広く、ラピダスの工場建設決定後、製造装置大手数社が道内進出を表明している。今後も関連産業が集積すれば、さらに一極集中が進む可能性がある。
 人口問題に詳しい北海道総合研究調査会(札幌)の五十嵐智嘉子理事長は、人口減対策として「公共施設の集約などマチの縮小化と、結婚や出産、子育てをかなえる政策を両輪で進める必要がある」と指摘。その上で「若者に選ばれる就職先となるよう地場企業の育成も必要だ」と話している。(久保耕平)
<ことば>将来推計人口 国立社会保障・人口問題研究所が、国勢調査や人口動態統計などを基に将来の出生率や死亡率を仮定し、日本全体や都道府県別・市区町村別の人口規模、年齢構成の変化を推計。おおむね5年ごとに公表される。社会保障分野などの政策や、政府の長期計画の基礎データとなる。都道府県以外の自治体は現在1741だが、今回の推計では政令指定都市は区ごとに算出。東京電力福島第1原発事故の影響が続く福島県沿岸部の「浜通り地域」13市町村は1地域としてまとめたため、計1884が対象。4月公表の全国推計では2070年時点の人口は8700万人となり、20年の1億2615万人から約30%減る。

2023年12月22日 23:24(12月23日 13:37更新)北海道新聞どうしん電子版より転載