2022年に開校した道内唯一の公立夜間中学「札幌市立星友館中」が、順調な滑り出しを見せている。本年度は生徒数が100人を超え、不登校や戦後の混乱で十分に学べなかった人、外国生活が長く日本での教育が不十分な人などに学習の場を提供。在籍している生徒3人から聞いた入学のきっかけや学びへの思いを紹介する。(麻植文佳)

■数学の苦手意識を克服 長根山未来さん(32)

 昔、中1の夏休み前から勉強についていけなくなりました。人間関係のストレスもあってだんだん学校へ行かなくなり、中3で出欠日数が半々になりました。通信制高校を卒業した後、ロシア語の専門学校に進学しましたが、留学中の単位が取れず中退。その後、親戚の紹介で就職しました。

 星友館を知ったのは21年の秋ごろ。札幌市のホームページでたまたま生徒募集を見つけ、私も入学できると分かりました。でも、生活に困らない程度の知識はあるし、仕事の後に学校へ行くのはしんどい。退学するかもしれず、初めから入学しない方がいいのでは。そんな思いもあり、通いたい強い理由はありませんでした。それでも友人の後押しもあり、入学を決めました。

 星友館で学び始めて1年半。授業中に分からないことを分からないと素直に言え、毎日が楽しい。元々嫌いだった数学への苦手意識も、もうありません。学校が終わって午後10時ごろに帰宅し、仕事へ行くため午前5時半には起きる生活です。それでも学校へ来たら先生も友達もいて、不思議と元気になれます。

 卒業後は何かの資格取得や放送大学への入学など、やりたいことがたくさんあります。星友館のおかげで学校へのマイナスイメージはなくなりました。私にとって大切な居場所です。

「星友館は大切な居場所」と話す長根山未来さん

 

■国超え求めた学び場 大塚清龍さん(21)

 モロッコ人の父親と日本人の母親の間に生まれ、アラブ首長国連邦や英国、モロッコを転々としました。イスラム教徒の学校に少し通いましたが、母語は日本語なので、言葉が通じず何を学んでいるか分かりませんでした。

 インターネットで日本のアニメやテレビ番組に親しみ、日本人の価値観が染みついています。家族が信仰するイスラム教に対する考え方を巡り対立。14歳で家を飛び出し、親戚や友人宅を転々とし、路上生活も経験しました。

 日本で思いきり学びたいと思い、支援団体や自治体、大使館に60通ほどメールを送りました。1月に生活困窮者などを支援する札幌の団体を頼ってモロッコから来日し、支援者の勧めで5月に星友館へ入学しました。私にとっては、日本語で学べる楽園のような場所です。

 11月に高卒認定試験を受験し、まだまだ勉強が必要と感じましたが、人生初の試験はとても楽しかった。将来は起業するなどして日本のために働きたいと考えています。

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日本語での学びに満足する大塚清龍さん

 

■先生と友人と楽しく 川股和歌子さん(82)

 実家は石狩管内当別町で米農家をしていました。小学6年からは農繁期になると、家の手伝いのため学校を休まないといけません。休むと勉強についていけず、勉強はそんなに好きではありませんでした。

 中学卒業後は祖母の家事を手伝い、その後、東京へ出て飲料メーカーの工場などで働きました。定年退職後は親の勧めもあり、札幌へ戻ってきました。

 星友館のことは開校直後、ニュースで知りました。80歳でも入学できるか不安でしたが、家にこもっていても仕方がないし、苦手な数学を勉強したいと、すぐ通い始めました。

 授業では、先生2人が丁寧に教えてくれます。私が子どもの時に、このように教えてもらっていたら、今とは人生が変わっていたかもしれませんね。先生だけでなく、ここで出会えた友人にも助けられ、楽しい学校生活を送っています。

友人の支えもあり楽しい学校生活を送る川股和歌子さん

 

■オンラインで連携 道内に分校を 基礎教育保障学会・岡田会長

 公立夜間中学に詳しい基礎教育保障学会の岡田敏之会長に、札幌市立星友館中の意義や求められる役割について聞いた。

 ――星友館中は開校2年目。道内唯一の公立夜間中学の役割をどう見ますか。

 「2020年の国勢調査によると、義務教育を終了していない人は全国に約90万人います。北海道では最終学歴が小学校卒業の人は約5万人と全国最多。星友館はそのような今まで学べなかった人たちに学ぶ機会を提供しています。さらに、不登校で形式的に卒業した人たちの学びの場にもなっている。これまで、札幌には自主夜間中もありました。星友館中とは先生同士の連携もあり、協力体制が築けている全国的にも珍しい例です」

 ――定員120人程度に対し、現在107人が在籍しています。

 「全国的には夜間中の生徒は減少傾向にあります。星友館がなぜ人気なのかは詳しく分析する必要があるでしょう。自主夜間中がニーズをうまく掘り起こして、星友館につなげたという面もあるかもしれません」

 ――一方、広大な北海道に公立夜間中は1校しかありません。

 「学びたい人は道内に点在しているはずです。旭川や函館といった道内の中核都市で公立夜間中の設立を進めながら、各地に分校をつくりオンライン授業を展開するなど、誰もが学べる機会をつくることが重要だと思います。そういった環境を整えるのは、道教委の腕の見せどころでしょう」

 ――今後、星友館中に何が求められるでしょうか。

 「公立中なので、必ず人事異動があります。現在勤めている教職員がいなくなっても、今の体制を維持し、持続可能な学校にしていけるかが大切になるでしょう。可能な範囲でマニュアルをつくり、多様な生徒が安心して学べる場の提供を続けてほしいです」

岡田敏之会長

 

<ことば>札幌市立星友館中 2022年4月開校。生徒の理解度に合わせて、七つの学習コースを設けている。義務教育を受ける年齢(15歳)を超えている人が入学でき、定員は120人程度。11月現在、10~80代の107人が在籍している。学生時代に不登校だった人、戦後の混乱期で十分に学べなかった人、外国籍や外国にルーツのある人が多い。札幌市以外にも、小樽や恵庭など周辺6市からも生徒が通っている。24年4月入学希望者の願書受け付けは12月25日まで。

2023年11月20日 05:00北海道新聞どうしん電子版より転載