部屋に風呂がない函館市営団地の入居者が銭湯の相次ぐ廃業に苦慮している「風呂難民」の問題を巡り、大泉潤市長は市長選で解決に努めると訴えたが、住民は今なお不満を抱えている。現状を探った。

 旧4町村地区を除く市内の市営団地は43カ所あり、36カ所には基本的に部屋に風呂がある。全室に風呂がないのは上湯川町の湯川団地と、本町、五稜郭、日乃出、豊川、大町、弁天の6改良団地。このうち湯川団地の住民は50年にわたり団地内の銭湯、菊乃湯を利用してきた。

 だが今年に入り経営者が9月で退くことを決め、住民に不安が広がった。菊乃湯の存続を含む風呂難民問題は4月の市長選でテーマとなり、大泉市長は「近隣に公衆浴場の無い公営住宅の問題解決に努める」、工藤寿樹前市長は「湯川団地内の銭湯の維持存続、公衆浴場への経営支援」とそれぞれの公約に盛り込んだ。

■菊乃湯は再開

 当選した大泉市長は補正予算に、菊乃湯の建物を買い取り市営で存続する経費2800万円を計上。10月、再オープンした。

 一方、その他の団地については問題が積み残されている。6改良団地のうち本町、五稜郭、日乃出は1キロ以内に公衆浴場があるが、合わせて約60戸が入居する西部地区の大町、弁天、豊川の各団地からは依然として「公衆浴場まで遠くて不便」との声が上がる。これらの団地には車を持っている住民が少ない。

 弁天改良団地に住む80代女性は2・7キロ離れた民営の谷地頭温泉に通っている。月、金曜はバスが運行しているが、通院で利用できない日は市電を十字街電停で乗り継いでいる。

 冬はつえをついて歩いており「乗り換えの間は寒さが厳しい。以前はいくつも銭湯があり、どこに行くか選べたのに」。西部地区では2010年に大黒湯、13年に白山湯、17年に弥生湯、22年に大正湯が廃業した。団地には台所で体をふくなどして1カ月以上も入浴しない住民もいる。

 市によると西部地区に直営の公衆浴場を設ける予定はない。市は菊乃湯を買い取った理由について、約600戸が入る湯川団地では銭湯廃業の影響が大きいとし、公衆浴場があることを前提に入居者を募集した経緯も挙げる。市は新小学1年への10万円支給など市長公約の実現へ新たな歳出も見込み、「財政はかなり厳しい」(市幹部)。

■住み替え案も

 大町改良団地に住む大町町会の兼平一典会長は「風呂が部屋にないのは、われわれも湯川団地も同じ。対策は待ったなしだ」と話す。市は対策として西部地区の3改良団地を28年度までに廃止し、新築する風呂付きの団地への住み替えを促す計画を提示する。だが整備まで時間がかかり、住み慣れた家を離れることに抵抗感がある住民もいる。

 大泉市長は10月の記者会見で「今すぐ予算を付けて具体策を講じるわけではないが、これからニーズを聞き検討する」と述べるにとどめた。公約に掲げた市内の高齢者への交通助成拡大も強調したが、風呂難民問題について当面の解決策を示せないままだ。

 市営団地以外でも風呂がない家に住む市民は多い。道教大函館校の斎藤征人教授(社会福祉学)は「乗り合いバスの運行や、病院、福祉施設の風呂の活用なども検討してはどうか。行政や地域で銭湯を守る仕組みを話し合う段階にきている」と語る。(坂口光悦)

2023年11月19日 22:50北海道新聞どうしん電子版より転載

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風呂がない弁天改良団地。対策を求める声が上がっている=18日