道内で行われる司法解剖の実施件数が、昨年1年間で837件に上り、過去10年間で2倍に増えたことが、厚生労働省への取材で分かった。全国のペースを上回っており、高齢化で在宅死や孤独死などが急増する中、死因究明の必要性が高まったことが背景にある。一方、解剖医のなり手不足が課題で、専門家は「解剖の質を確保するため医師育成が急務だ」と指摘する。

 司法解剖は刑事訴訟法に基づき、警察が大学病院などに嘱託して行う。大相撲時津風部屋の力士が2007年に死亡した傷害致死事件で、当初警察が病死と判断していた問題を受け、国は犯罪の見逃しを防ぐため、法整備に着手。20年には死因究明等推進基本法が施行された。

 全国的に解剖の実施件数が増えており、厚労省によると、22年に実施した司法解剖の件数は、全国で9717件(13年比1・14倍)、道内で837件(同2・03倍)だった。高齢化が急速に進み、道警が扱う遺体数は22年に9千体を超え、13年から1・26倍に増えた。道警の捜査関係者は「高齢者の在宅死が急増していることもあり、死因などを確実に究明する傾向が強まっている」と話す。

一方、解剖医不足は深刻化している。全国の解剖医は計約150人で、東京や大阪、愛知を中心とする三大都市圏に集中し、そのほかは「1県1人」の状態が多いという。道内で司法解剖を行う医師は札幌市2人(北大、札幌医科大)、旭川市1人(旭川医科大)の計3人にとどまる。

 警察が司法解剖を嘱託する医師は限られ、不適切な事案が起きても国などへの報告は義務づけられていない。ある解剖医は「法医学の世界は外部の目が入りづらく、問題が表面化しにくい」と明かす。

 司法解剖を巡っては、過去に遺体内にハサミを置き忘れたり、使用済みの軍手を体内に入れたまま縫合したりする問題が明らかになった。道内では7月、道警が旭川医科大法医学講座に嘱託した男性遺体の司法解剖で、納体袋内にハサミが取り残されたまま火葬される問題が発覚している。

 司法解剖の実施件数が増える一方、解剖医の志望者は全国的に少ないという。日本法医学会(東京)の神田芳郎理事長は「国は解剖医育成の強化に加え、不適切な事案の検証や再発防止に向けた報告体制の整備も進めるべきだ」と話している。(三島今日子、下山竜良)

<ことば>司法解剖 警察などが事件の疑いがある遺体の死因などを調べるため、大学病院などに嘱託して行う。解剖医は死体検案書を作成し、刑事事件の公判に出廷することもある。大相撲時津風部屋の力士が2007年に急死し、愛知県警が病死と判断した後、両親が求めた解剖で外傷性ショックと判明し、親方らが傷害致死容疑で逮捕される事件が発生。死因究明の機運が高まり、国や警察の責務を明記した法律が定められた。

2023年11月11日 19:00(11月11日 20:38更新)北海道新聞どうしん電子版より転載