東京都内を走行中の電車内で2年前に起きた二つの無差別刺傷事件の裁判で、双方の被告に実刑判決が言い渡された。

 どちらも不特定多数が乗る逃げ場の限られた車内で切りつけ、一方の事件では火も放った。

 大惨事になりかねない犯行だった。厳正な裁判に基づき刑事責任を負うのは当然だ。

 住民生活に欠かせない電車内の安全対策が重要になる。

 両被告に共通するのは孤立を深めた中で犯行に及んだ点である。

 その背景に目を向け、社会とのつながりが断たれた若者を救う手だてを重ねることが求められる。

 京王線の車内で2021年10月、乗客を襲撃したとして殺人未遂罪などに問われた被告を東京地裁立川支部は懲役23年とした。

 人を刺し、車内で放火して多数を殺害しようとしたと認定し「凶悪で卑劣な犯行だ」と断じた。

 小田急線で乗客らを刺したとして殺人未遂罪に問われた被告には、東京地裁が「非常に悪質」と懲役19年を宣告している。

 京王線の被告は3カ月前のこの事件を模倣したという。同種事件の連続に当時衝撃が広がった。

 それぞれの公判で被告は「自分だけが不幸と感じ、劣等感が憎しみに変わった」(小田急線事件)、「元交際相手の女性の結婚を知り、死刑になりたいと思った」(京王線事件)と動機を語った。

 身勝手と言うほかない。

 近年、同じように多くの人を巻き込む事件が相次いでいる。東京・秋葉原の殺傷や京都アニメーション放火、大阪・北新地ビル放火などが挙げられる。

 いずれの加害者も相談相手や手を差し伸べる人がいない中、疎外感を抱いて一方的に社会への憎悪を募らせ、凶行に及んでいる。

 安倍晋三元首相や岸田文雄首相に対する襲撃事件の被告・容疑者にも似た部分があった。

 再発を防ぐには、孤立を感じる人たちが他者とのつながりを見つけられる居場所を増やしたり、相談体制を整える必要がある。

 雇用の不安定化、職場や地域の人間関係の希薄化、コロナ禍の影響や交流サイト(SNS)の普及―。こういった時代の変化についても検証が欠かせない。

 無差別襲撃事件の背景を探ることは、犯行の正当化になるとの主張が一部の政治家から聞かれる。

 だが加害者に刑事責任をきちんと取らせることと、犯罪のない社会を目指すために境遇や社会的背景を考えることは全く別の話だ。

2023年8月8日 05:00北海道新聞どうしん電子版より転載