相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年、45人が殺傷された事件から26日で7年。深い傷を負った園は居住棟が解体され、神奈川県が21年に再建。入所者の日常が戻り、今年は新型コロナウイルス禍で途絶えていた地域との交流も再開した。「事件を乗り越え、障害のある人への理解を深めることが園の役割だと思う」。園長の永井清光さん(53)は悲しみを抱きながら、新たな歩みを進めている。

 「わあ、きれい」。暗闇に浮かぶ光に、女性入所者の歓声が上がった。入所者や職員が6月、事件後初めて参加した地元のホタル祭り。「頑張ってね」。久しぶりに顔を合わせた住民から、優しい声がかかった。事件の背景には根強い差別意識があったが、近所に住み、祭りの実行委員長を務めた山本武春さん(74)は「事件は関係ない。障害者を理解する人はたくさんいる」と語った。

 入所者は今年、地元でのボランティア活動も再開。永井さんは悲惨な事件からの再生に手応えを感じている。

 あの日は、混乱のさなかにいた。「テレビを見てくれ」。16年7月26日、同僚の電話で事件を知り、自身が採用に携わった元職員植松聖死刑囚(33)のことが真っ先に浮かんだ。12年から共に働き、障害者への差別意識を感じて何度も厳しく指導した相手だった。

 ニュースを見て園に駆け付けた。入所者が身を寄せた体育館の蒸し暑さが忘れられない。「絶対に許せない」。憤りは消えない。

 居住棟が取り壊されることになり、入所者は転居を余儀なくされた。21年夏の再建時には事件の記憶から、戻ることに戸惑う人もいた。しかし「住み慣れた場所がいい」との声もあり、事件前にいた約150人のうち、約40人が再び入所。新たな仲間も含め、今は約60人が暮らす。

 園は「風化防止と当事者目線の福祉」を掲げ、職員は入所者数を上回る約90人。将来的に生活の場を施設から社会に移す「地域移行」を目指す。この理念や手厚い態勢を学ぼうと、昨年度は福祉関係者ら千人以上が見学に訪れた。

 「人の役に立てる仕事をしたい」と志し、社会福祉法人に就職した永井さんは16年まで10年以上、園に勤務。別施設への異動を経て、園を最も理解する存在として再建後のトップを託された。中学校などからの講演依頼もあり、今後も地域交流に力を入れるつもりだ。

 「職員は事件を背負っていく。入所者には心穏やかに過ごしてほしい。そして、私たちを知ってもらうことが共生を考える第一歩になる」と信じている。


 相模原殺傷事件 2016年7月26日、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刃物で殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った。元職員で殺人などの罪に問われた植松聖死刑囚(33)は横浜地裁の裁判員裁判で「意思疎通のできない障害者は不幸を生む」との差別発言を繰り返し、20年3月に死刑判決が言い渡された。死刑が確定したが、22年4月に再審請求。横浜地裁は23年4月、棄却する決定をした。死刑囚側が即時抗告した。

2023年7月25日 17:05(7月25日 18:41更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

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津久井やまゆり園を背に立つ永井清光園長=6月、相模原市